料理は練習しといた方がええで

 互いにパンパンのレジ袋を両手に下げながらマミちゃんの家の前についた。マミちゃんの家はメゾネットタイプの二階だ。両手を塞がれた状態でメゾネット特有の細く急な階段を上るのは骨が折れたが、前を行くマミちゃんのお尻が丁度顔の前に来る設計であったので設計者に感謝の念を覚えた。階段を上り終えた僕らは不自由な両手で何とかドアノブをおろし、リビングに入った。家具はセミダブルベッド、テレビ台、ローテーブル、小さめのチェストしかなく、白で統一されたシンプルなデザインとその配置が八畳という部屋の狭さを上手く感じないようにさせていた。フェミニン系の家具は無かったが、所々に置かれたディズニーのグッズが女の子らしさを演出していた。女の子の家というのは、どうにも腰かける場所に悩むものである。マミちゃんの家には同期と共に何回か来たことがあったが、来るたびにどこに腰かけてよいか頭を抱えていた。二人なら猶更である。部屋に入った僕はテレビの真正面に配置された四角いローテーブルの、テレビと反対側の辺に腰かけ、その横に荷物を置いた。この位置こそが正解である。マミちゃんは『プリズンブレイク』が放映されるテレビに背を向けて座ることは無い。よってマミちゃんが座るのは左右どちらか分からないが、僕の隣の辺である。僕らは向かい合って食事をするのではなく、隣り合って食事をすることで、より近い距離にいられるし、その方が心的距離も縮まるだろうと考えたわけである。


「お腹すいたからはよ作ろ。」


マミちゃんが言った。彼女が腰かけることなく、そのまま台所に向かった為、僕は自分の決断に対する答え合わせが出来ないまま料理を作ることになった。


「私玉ねぎ切るから、ピーマン切って。」


そう言われ、僕はピーマンを袋から出す。調理スペースが狭かった為、僕らはまな板を半分ずつ使って互いの野菜を切り始めた。料理になれていない事、狭い調理スペース、至近距離に意中の女性がいること全てが相まって僕の手は思うように動かなかった。


「もう。私一人でやった方が速いやん。普段から料理せんの?」


「料理作るのあんま好きじゃないからせんな。ただ今マミちゃんのとなりで料理作ってるの無茶苦茶楽しいから、今度からしてみよかな。」


「きしょ。ピーマンもまともに切れないのに料理なんかできひんよ。貸して。」


「ごめんなさい。」


まな板から追い出された僕はマミちゃんの斜め後ろから手つきを眺めることにした。普段は髪を下しているマミちゃんが、今日は料理前にハーフアップにしていた。元々肩にかかるかかからないか位のショートヘアをハーフアップにしている為うなじが良く見えた。生え際のラインがほぼ分からないほど毛が散乱したうなじと、身長差を強く感じるポジショニングに僕は欲情してしまった。僕の欲情をよそにマミちゃんはピーマンを手際よくくり抜き、半分に切り分けていった

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