マミちゃんと探偵ナイトスクープ編

可愛い子っていいよな〜

 職場では殆どの時間をハルカちゃんと共に過ごしていたが、僕の恋の第一志望はマミちゃんから変わっていなかった。最初は芸能人顔負けの外見と、見るからに恋愛偏差値の低い僕にも優しく接してくれるその慈悲深さに惹かれていたが、会話を重ねる毎に彼女のより根本の部分、パーソナリティーにも魅力を感じるようになっていた。マミちゃんの特筆すべき点はその笑いのセンスにある。これは決して男女差別では無いのだが、男が尖ったユーモアを好むのに対し、女性は緩めのユーモアで満足することが多い。ナンパ成功時の音声がよくインターネットに上げられているが、そこで相手の女性から笑いを引き出している台詞は実に中身の無いものである。しかしマミちゃんはユーモアに一切の妥協を許さない。笑顔を絶やさない女性ではあったが、面白くない話に対しては毅然とした態度を取っていた。川田が本格的に料理を始める為にコショウを買ったという何のオチも無い話をしたことから、彼にコショウというあだ名を付けるくらいには笑いに厳しかった。そして彼女の男勝りな笑いのセンスに、約二十年間男ウケだけを目指して煮詰められ、醸成された僕のユーモアは、まるで隣り合わせのジグソーパズルのピースのようにぴたりとハマった。彼女のフリに対して、僕がそれまでの人生経験の中から導き出す解答は、『スラムドックミリオネア』のように、彼女の中での正答を毎度正確に射抜き、笑いを生んだ。大学時代生ぬるいユーモアしか持た無い男達にクラスの覇権を握られ、鼻つまみ者にされた僕の目には、彼女の性質がとても魅力的に映った。同時に彼女を精神的に満足させられるのは僕をおいて他ないのではないかという自負を抱かせるのであった。

 

 会話を重ねる度にマミちゃんとの距離は縮まっていき、休日に二人で食事を取ることも増えた。最初に彼女と出会った時には想像も出来なかった程、事は順調に運んでいたのだ。二人で食事を取った翌日は心なしか職場でも笑みが零れているらしく、ハルカちゃんから


「昨日マミとデートしたん?」


と、問われることも多々あった。しのぶれど色に出にけりわが恋はである。そんなある日、マミちゃんと海外ドラマの話で盛り上がり、『プリズンブレイク』を互いの家で見ようという話になった。苦節二十三年、遂に想いを寄せる女の子の家への切符を手に入れたのだ。初めての一人暮らしの寂寥感から僕との距離が縮まっているのかもしれないが、そんな事などどうでも良かった。遂に僕は可憐な乙女と家を行き来する仲になるのだ。僕の遅すぎる青春がようやく始まろうとしていた。

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