童貞上司

 入社から二ヶ月、店内での配属が発表され、僕はハルカちゃんと同じセクションで働くことになった。彼女は優秀さとその美貌で僕達の直属の上司の心を瞬く間に射止めた。三十歳童貞のような見た目をしたその上司はハルカちゃんに入れ込み、職場ではつきっきりで教育を施し、プライベートでは彼女にひっきりなしにLINEを送っていたらしい。ハルカちゃんと僕の大きすぎる待遇の差を見かねた先輩社員が僕を心配するも、当の僕は平然としていた。僕に下らない文章を書く能力があるように、彼女には上の人間に気に入られる能力があっただけだ。何を妬むことがあろうか。それに出世を希望しない僕にとって、三十歳童貞からのつきっきりの教育も、休日のLINEも迷惑なだけである。周りは色々と騒いでいたが、僕とハルカちゃんの関係性は良く、互いをビジネスパートナーとして信頼し、上手くつまらぬ仕事をこなしていた。

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