上司にしたい有名人大喜利

「みなさんおはようございます。」

司会進行役らしき女性が前に出てきて言った。新社会人を教育するにふさわしいハキハキとした話し方だ。もっと陰気な始まり方の方が僕の性には合っていたが、会社としてはこちらの方が正しい。女性によるプログラムの説明と軽いオリエンテーションが終わると、最初の講話を担当する重役が招かれた。重役は会場の隅にある椅子から立ち上がり、脂肪たっぷりな腹を揺らしながら、ノートリアスウォークで壇上に上がって来た。素でやっていたとしても、役でやっていたとしても面白い。傲岸不遜、傍若無人も突き抜けてしまえば愉快である。


「えー私が皆さんの最終評価者兼エリア統括者の馬場と申します。以後よろしくお願いします。」


歩き方に違わぬ高慢ちきな話し方であった。好意的な気持ちで眺めていたが、最終評価者となると話が変わってくる。評価はもっと腰が低そうな人間につけてもらいたいものである。

 

 重役は会社の方針や、社会人としての心得などつまらない話を三十分程した後、突如画面に男性有名人の名前が並んだランキングを映し出し


「なんのランキングだと思う。」


と何人かに尋ねた。三番目に当てられた女性が正答し、それが世間の理想の男性上司ランキングであることが明らかになった。


「では女性で上司にしたいランキング一位は誰だと思いますか?」


突如僕に質問が飛んできた。ハルカちゃんマミちゃん、そしてコナー・マクレガー上司の前で初の大喜利を披露する羽目になった。ベルクソンは著書『笑い』の中で「移調」こそが滑稽さを生み出すと述べていた。ここでは実際に一位になりそうな女性芸能人と僕の回答との間に、若干の落差が無ければいけない。その落差が「世間の」の部分に対する落差であれば、よく女上司役をやる僕の好きなセクシー女優が正答になるし、「理想の」の部分に対する落差であれば禿げた部下を叱咤した女性議員が正答である。僕は二、三秒の間にこの思考を回転させ、


「K.A.B.Aちゃん」


と答えた。「女性」の部分に対する落差を選択したわけである。結果は二勝一敗。マミちゃんは声をあげて笑い、コナー・マクレガーも必死に笑いをこらえていたが、ハルカちゃんの表情はピクリとも動いていなかった。ちなみに他の人々は失笑していた。中央値が失笑であるにも関わらず、僕は手ごたえを感じ得意げな気持ちになった。その後コナー・マクレガーが何を話していたのかは覚えていないが、理想の上司ランキングを提示しなければならないような内容では無かったことは覚えている。

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