失われた青春を求めて

 高校に上がった僕は読書だけでなく、映画、アニメ、音楽にも没頭し、人類の英知が詰まった娯楽を謳歌していた。また童貞を捨てる為に奔走し、アプリで出会った童貞高校生好きコスプレイヤーに筆おろしをしてもらうことにも成功した。校則の緩い進学校で勉強をしない決意をすると、こんなにも自由に使える時間があるのかと当時感動したものだ。勉強をしなくても何も言われないし、どんなにキモチワルくとも周りの人間が成熟しているので、いじめられることも無い。社会との関係を保ちながら好きなことに没頭できる。女の子が居ない事を除けば、最高の環境であった。少しでも環境が異なれば、僕にもハートネットTVの出演依頼が来ていたことだろう。それもそれで悪くは無かったか。中途半端に社会に順応出来てしまった結果、僕の現在の惨状があるのだから。


 甘酸っぱい恋、仲間と全国を目指す部活動、将来の為の受験勉強。男子高校生が経験すべきものにわき目もふらず読書と好色に没頭する。そんな高校生活であった。校長先生がある日の朝礼で


「ここに大きな壺と石、砂、水があります。先ずは壺の中に石を出来るだけ入れます。石は壺の口一杯まで入る筈です。次に砂を入れます。砂は石と石の隙間を埋め、同じ様に壺の口一杯まで入るでしょう。最後に水を注ぎます。水も石や砂を湿らせ壺の口一杯まで入るでしょう。しかし入れる順番を逆にしたらどうでしょうか。水の後に砂を入れようとしても、壺の中は既に水で一杯に満ちており、入る場所はありません。君たちの知識も同じことです。必要な知識を後回しにして、無駄な知識を先に入れてしまうと取り返しのつかないことになります。色々な事に興味が尽きない年頃だとは思いますが、まずは勉学にしっかりと励んでください。」


という訓話を話してくれた。彼に言わせれば僕は必要な知識を何一つ身に着けず、壺を真っ先に水で満した愚か者ということになるであろう。高校時代の僕を擁護するつもりは無いが、ここにアリストテレスの言葉を引いておく。


「何が必要かと考えることは、自由人として最もふさわしからぬことである。」


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