第2話
「ああ、ここ、いいな……」
南国支社の、とある孤島、海沿いの部屋に目が止まった。
大きな窓から差し込む、南国特有の強い日差し。
海風に揺れるレースのカーテン。
崖の上に建つから、見晴らしは本当に良くて。
水平線が広がるその窓は、私をまるで開放してくれるようにも感じた。
ネットに掲載された写真、動画からでも。
「そうだ、ここに行こう。リセット……」
気付いた時にはほとんど着の身着のまま、飛行機に飛び乗っていた。
どこをどうたどって、何をどうしてそこまでたどり着いたのかは全く覚えていない。
いつの間にか、あの不動産屋の店舗に駆け込んでいて、「部屋を見せてください」って。
不動産屋さんの担当者、ひどく驚いていたけど、でもにこやかな男性だった。太っていて、丸顔で、南国で働くのは似合っていないような、噴き出す汗をいつも拭いていた。
セールストークっていうか、物件へ向かう車のなかで何かと話をしてくるのだけれど、どうにもぎこちなくて、全然面白い話もなくて。
私はもう疲れていたから、いつの間にかうとうとと……。子守唄を聞いている気分だったことだけは確かだ。
でも、なんか一生懸命。
私が眠ってしまったらもう、話をするのはやめていたなあ。
そこだけは好感が持てた。
その家、実際に来てみると驚くような外観。白亜のマンションって、海の青と建物の白さとがキラキラしていて、それも素敵だなって思っていたのに。実物見ると全くその逆! 薄汚れた築30年。それも潮風にさらされているから、もっと古ぼけて見える建物だった。がっかり。
「リフォームは済んでいますから。ウェブに掲載していたように、中は素晴らしいんですよ! そうそう、見晴らしが特に最高なんです! 実際に見てもらえればきっと、もっと気に入ってもらえますよ」
担当さんはもう必死で、汗を拭き拭き、とにかくここまで来たんだからと、私を必死に口説こうとしている。
なんか本当に、口説かれている気分。
ほだされて、私はその古ぼけたマンションの、一番いい部屋、そうあのページ「内見」で一目ぼれした部屋へ。
そうだ。
ここだ。
ここでいいんだ。
「素敵ですね。すごく、きれい」
本音だった。
ため息が出るくらい。
「そうでしょう、そうでしょう」と、担当さんもうなずいている。満足そうだ。でも、私は……。
何故か、つうぅと、涙が頬を伝っていた。
担当さんは後ろ、私は大きな窓からベランダに移って、遠く水平線の彼方を見ていた。
自分の涙にも気づかず。
ああ、ここで……。
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