幸せな家

リセット

「人生をリセットする方法はいくつかあります」


 私はその配信をぼんやり見ていた。


「……などはやはり定番で、変わったところでは……」


 失恋と失業。

 人生において、あまり経験したくないこと。

 それがまさか、ダブル、同時に来るなんて。


 悪いことは重なるのか、それとも私の運勢が最悪なのか。


「大殺界に入っているねえ」


 ニヤニヤと人の気を逆なでするような笑みをしわの間から浮かべつついった、辻占のばあさんの顔が思い出される。


「これは、そう。そういうことだから」


 指輪をくれた彼氏の照れた顔は、『察してくれよ』と言葉よりもはっきりいっていた。

 そんな彼と素敵な一夜の後だったから、「はあ?」って、ばあさんの言葉に、そのときは。

 きっと今の私は上り坂、さあ私の運勢の良さに驚きなさい。

 みたいな。

 そんな浮かれ気分で何気なく占ってもらっただけなのに。


「信じるか信じないかはあんた次第だけども。でも、良くない、良くないよ、これは。死神にでも憑りつかれているみたいだ。あたしもこの世界に入って長いけど、こんな悪い運勢見たことない。手相! 顔相!! タロット!!! すべてダメだね、これは。ダメージワードは指輪。それには気ぃつけな。運勢を好転させるもんが一つだけあるんだけどねえ」


 ニヤリと笑ったばあさんの顔があまりにも腹立つもので、そもそも指輪って、私の今の幸せのもとじゃない! って、お代叩きつけて、


「残念! 大外れ!! 私はいま幸せなんですっ!」


 その翌日には……。


「はあ? クビ?」


 課長の言葉に耳を疑った。

 私が何かした?

 ……いや、したけども。

 まさか、ばれるなんて……。


「男に貢ぐのもいいが、会社の金に手を出して、それで平気な顔をされてもな」


 うちとしては大事おおごとにしたくない。

 だが、この先、君を雇い続けることはさすがに出来ない。

 今すぐ辞めてくれ。

 言い訳を重ねるつもりなら……。


「分かっているね」


 有無を言わさない迫力に、私は「はい」とうつむくしかなかった。


 彼にはすぐ連絡した。

 けれど、つながらない。

 通信アプリも、電話番号も、何もかも、ブロックされていた。

 おまけに「いつかね」なんていわれていた彼の家も、住所はでたらめだった。

 指輪、あれも安物だった。とんだまがい物で、おもちゃみたいな。そんなもにもコロッとだまされるなんて。


 そう。騙されていた。


 最悪の形でそれに気付かされたのだ。


 これからどうしよう……。


 呆然と、すべてを失った私は「リセット」の文字を何故かスマホに打ち込んで、それの検索ばかりしていた。


「人生のリセットなら、部屋を替えましょう!」


 理想の住まいをあなたに。


 なんて、うたい文句の不動産屋のページに入った。

 何となく、「内見」とのタグから、部屋をいろいろ見ていたら……。

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