4.しまこは営業に向いていません
当時、まだ新型コロナウィルスが流行っていました。
「我が社の〇〇(商品名)は、コロナの在宅療養でも給付金が出ます! 〇〇(商品名)はいい商品です! 頑張って売りましょう!」
そう声高に言われました。
しまこはそれを聞いて、「他のものは給付金は出ないが、〇〇だけ、給付金が出る」と理解しました。だって、「〇〇(商品名)は」の「は」はそういう意味でしょう、日本語として。
でも違いました。
別に「〇〇(商品名)」でなくても出るのです。
それどころか、他社の商品でも出るのです。
そのことに気づいたとき、しまこは「詐欺だ……」と心の中でつぶやきました。
そのようなわけで、しまこは熱心に売ることは出来なかったのです。詐欺の片棒を担ぎたくなかったのです。
「詐欺だ」などと思わず、鵜飼いの言うことをそのままにどんどん売っていけばよいのです。たぶん、それが鵜の役目なのです。でもどうしても、いいと思っていないものを無理に売ることは出来ませんでした。
つまり、営業には向いていないのです。
上司が言いました。
「うちの近所の人、一家でコロナにかかったけど、保険に入っていなかったのよ。保険に入っていればもうかったのにね。馬鹿だよね。四人だから〇〇万円もうかった!」
しまこは曖昧に笑いました。
どうしても、「コロナにかかって給付金が手に入ったらもうかる」とは思えないからです。コロナにかからない方がずっといいです。後遺症も心配です。
でもきっと、上司のような思考でないといけないのです。だけど、どうしてもそのように考えることが出来ませんでした。
同じくらいに入社した人が言いました。
「まず身の周りの人からよね。友だちもみんな保険に入ってもらって!」と。
え?
それは友だちではないでしょう。
しまこには、友だちを財布だと思うことが出来ませんでした。
そんなわけで、しまこは営業に向いていないのです。
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