第59話 卵から孵った翠
翠には、初めての体験だった。狭く暗い卵の中がこんなにも安心できる空間だとは。『ティルスイザーク』の名前は既に翠の心に届いていた。時々、遠く近く、子守歌が聞こえてきた。
大分身体が大きくなったので、「う~ん!!」と伸びをしたら、人型のエリサルデがビックリして、こっちを見ていた。
しばし、見つめあう二人。
『ティルスイザーク?小さくなったけど、神獣という子が来て、これが翠だからって、卵を置いて行ったの。間違いないわよね?』
『間違ってない。ボクが翠だよ。あっ!!もうティルスイザークか……』
『私より小さくなってしまったわね?』
『直ぐに追いつくよ。ずっと、側にいるよ。君より長生きできるよ』
翠が言うとエリサルデは、泣き出した。
『誰も……父様さえそんなことは言ってくれなかったわ。だって、私は竜なんですもの。どんな人間よりも長生きしてしまうのは、当たり前だもの」
ティルスイザークは、『ロイルの長』になったエリシスがエリサルデのことを気に入ったのが分かっていた。
いかに神の子孫とはいえ、人間と風竜では婚礼は難しい。
だからこそ、アシュレイとニック・カールトンの冒険の時に二人で密かに銀の森を抜け出して、シェラナ山に先回りしたのである。
その時に、シェラナ山で、二人で誓ったのだ。
『もう、一人じゃないよ。いっしょに、生きていこう』
『破ったら、殺すから』
『怖いな……君は……』
エリサルデは、育ての父のもとを離れて、翠がアシュレイと冒険をしている間も、天変地異が起きた時も、魔法でこの巣を守り、翠が帰って来るのを待っていたのである。
エリサルデは、人型になってまだ卵の殻をくっ付けていたティルスイザークを抱きしめた。
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