第58話  ボクの償い

 翠の風竜としての力は、この世界の風竜としては別格で、とても強大なものであると同時に、心臓が取られた時に、精霊の風の奥方が同情して、翠に精霊の力も渡してあった。それ故に、翠の力は、無敵で天上界の神でさえ、危うく思って注視していたのだ。

 結果として、友を失って天変地異を起こす力を使ったのだ。


 翠の処分は、後回しにして一刻も早く、狂った時点を元通りにする必要があった。

 三柱の神は、天界の四方に立ち残った一つを翠が担った。

 創世神が、中央で大声で吠えて、呪文を唱えると残った三柱の神も、創世神に合わせて、呪文を詠唱する。翠は言葉が分からなかったので、レトア語で一生懸命祈った。ほんの数秒狂っただけで、こんな大変なことになるとは……。翠は、一心不乱に祈った。神たちの祈りは、いつ終わるかも分からず、昼夜の無い展開で、何日にも渡って行われた。最後の方は翠も記憶が飛んでいる。そして、疲労困憊で倒れてしまった。


 次に翠が目覚めたのは、イグニスと、その兄イリアスの部屋であった。


 人型ではあったが、透けている……何だか不思議な感じだった。


『目覚めたか、ティルスイザークよ』


 イリアスが、翠に声をかけてきた。


『そなたの協力もあって、地上は 落ち着きを取り戻した。人界の被害は大きいが、予見されていた災害ゆえに、被害は最小限だ。だがそなたの竜としての寿命は、尽きてしまった』


『え!? 困ります!! ボクにはいっしょに暮らしたい風竜の女の子がいるので!!』


『風竜の?』


『はい』


 イリアスは、翠から風の奥方の力も取り上げ、出来るだけ人間の世界にも魔族の世界にも関わらないことを約束させた。そのうえで翠の竜の名である、『ティルスイザーク』の名前を受け取った竜の卵を、エリサルデのところに送ってくれることを約束をしてくれた。

 翠の罪からすれば、寛大に見えるが、天界がイグニスの無理な転生によって引き起こされた過ちであることを認めた結果である。


『本当に良いのだな? 元の世界に帰らなくても?』


『良いんです。ボクは、ここでいつか来る、トラを待ちます』


『人間の方が、早く会えるぞ?』


 イリアスが言うと、翠は笑って答えた。


『彼女が風竜ですから』


 翠の笑顔に、イリアスは今度こそ安心した。


『今回は、イグニスの説明不足もあった故に大目に見るが、そなたは我の眷族で風竜ぞ。二度と魔族に関わるでないぞ』


『分かっていますって。彼女と満喫する予定です』


『そうか……』


 その時に、イグニス女神が抱きかかえるくらいの大きさの卵を持ってきた。


『ここに、あなたを入れて、シェラナ山に落とします。卵は直ぐに孵るし、竜の16歳違いは、年齢差が無いくらいですわ』


『ありがとうございます。女神様』


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