第55話  アシュレイがやられた!!

 人間たちは、思ったほど魔族がおらず肩透かしをくっていた。

 特に、魔法剣を手に入れたサックスは、我先にと巣の中へ入って来たが、もぬけの殻である。


「どういうことだ? これは?」


『勇者が魔法剣を持って、魔王を殺しに来るって予見してたんだよ。ここの魔族は、避難して行ったよ』


 人型になった翠が出迎えた。


「お前は……確か、ロイルの長の館で会った小僧!! 魔王は何処だ!?」


『ボクが、魔王の代理だよ』


「闇堕ちしたのか? 魔族に味方をするなど!!」


『してないよ……少しの間だけ、玉座を守って欲しいって頼まれたんだよ』


「ならば、お前が魔王だな!! この魔法剣『マナナーン』の名において成敗するぞ!!」


『おじさん?』


 サックスは、魔法剣『マナナーン』を抜いて翠の方に突進して来た。


 翠の竜の目は、人間の動きなどすごく鈍く見えるのだ。

 魔法剣を交わす翠。


 竜族は、危害を受けることもない。

 だが、サックスと言う男もしつこかった。

 翠が逃げても、逃げても剣を振り回してくる。


『ねぇ、「マナ」ってレトア語で「魂」の意味だよね?『マナナーン』は「勇者の魂の如きもの」として名付けられた剣だよ。おじさんに、その剣は相応しくないと思うよ』


 翠の頭には、もうすでにレトア語が共通語のようである。 

「剣を持つのに相応しくない」の言葉に、サックスはキレてしまった。


「何だと~~!! オレが魔法剣に相応しくないだと!? 魔族の味方をしているお前は何だ!!」


 ところかまわず、魔法剣を振り回すので、《火竜の気配の強い剣》のせい

で、たちまち辺りは火の海になった。


(まずい!!オーキッドを避難させなくちゃ!!)


 翠が思ったのは、火に弱いディン族のことである。

 翠は、サックスから離れると、玉座の方に向かった。

 そこにオーキッドとアシュレイがいるはずだ。

(二人を外に逃がして、こいつらを風で吹き飛ばして帰らせよう)


 巣の一番奥の玉座まで、来た時に二人はまだそこにいた。


『アシュレイ!! 大丈夫か!?』


「オレのことは良いよ。それよりお姉さんが苦しそうだよ!!」


オーキッドは、苦しそうに咳をしていた。


『今から、風の力で巣の中の人間を飛ばすよ。アシュレイも後で回収するから』


「分かった」


 言いかけてアシュレイは、翠の後ろにサックスの姿を見た。

 翠を目掛けて剣が振り降ろされる瞬間であった。


 翠は、あり得ない光景を目にした。

 不死身のはずのアシュレイが、血を流していたのだ。

 翠は、怒りに任せて、風を吹かせた。


 全ての人間、魔族が魔族の巣穴から放り出されて、何処かへ飛ばされた。


アシュレイは、魔法剣を使われたせいか、魔法が解けてしまって猫の姿に戻っていた。


「トラーー!!」


翠の声が魔族の巣に木霊した。

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