第53話  魔王と対面

 南の先端の山、マラ山まで翠の竜の翼でならひとっ飛びだ。

 高温多湿の気候は、前に来た時と変わらない。


「わぁ、空気が『もわっ』てしてる~~」


 初めてのアシュレイには、不快なのだろう。

 風の力で、身体を護らせていたが、それでも湿度が気になるようだ。


『日本も、こんな気候だよ。少しは慣れた方が良いよ」


「オレは帰れなくても良いんだよ」


『まだ言ってる……』

(早く帰った方が、アシュレイの身体の為なのに……)


 翠は心配するが、アシュレイはこの世界を楽しんでいるようだ。


(馴染んじゃったのかなぁ?)


 やがて、ジャングルの中の開けた場所で、オーキッドが立っているのが確認できた。


『ディン族のオーキッドだ。降りるよ、アシュレイ』


「うん、翠君」


 アシュレイは、もう翠の背中の飛行も怖くなかった。

 翠といっしょにいられるのが楽しかったのだ。



 ▲▽▲




『これ、確かに返したよ』


 人型となった翠は、『ディッセイの剣』をオーキッドに渡した。

 魔法使いと精霊との契約を切るという魔剣だ。不気味に黒く光っていた。


『これは……光の洗礼を受けてるわ。私の手では、持ち帰れないわ。悪いけど、巣まで来てもらうわ。魔王様があなたをお呼びだし……』


 翠はピクリとした。


『ボクが、北で暴れたことを知ってるんだ?』


『よりにもよって、ディン族の始祖の村を全滅させるなんてね。思ってもみなかったわ。あなたは、私たちが思っていた以上に強かった』


『ゴメン……』


頭を下げる翠を見て、オーキッドは不思議に思った。


『竜族は、光の眷属のはずでしょう?魔族に謝るなんて変だわ』


『でも、ボクは怒りに任せて村を焼いてしまったんだ』

 魔族の村を焼いてしまった事を、本気で悔いていた。



 ▲▽▲



『そなたが、風竜のティルスイザークか。余は、ここの魔族を束ねる王、

 ディスティンだ。遠路ご苦労であった』


 ディン族で魔王を名乗るディスティンは、翠を歓迎してくれた。


『あの……』


 翠が何かを言いかけた時、魔王は翠の言葉を遮った。


『そなたに頼みがある。ティルスイザークよ』


『あの……その名前は、慣れてなくて……できれば翠と呼んでください』


『我らとそんなに親しくなりたいのか?変わり者よ。だが、こちらはそなたに頼みがあるのだ。これは、押し付けではなく、頼みなのだ』


『何ですか?』


『そなたには、余の年が幾つに見えるか?』


 言われて、翠はディスティンをジッと見た。

 どう見ても、50歳代だ。

 それを言うとディスティンは、大笑いした。


『竜の目は曇っておるのか?それとも?何か理由があるのか?』


 その時初めて、翠の後ろに控えていたアシュレイが口を開いた。


「翠君、見た目で誤魔化されちゃ駄目だよ。ディン族は、いくらでも人間に擬態できるんだから」


『え?』


 アシュレイに言われて、改めて竜の目でディスティンを見る彼はひどく年老いていた。





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