第52話  いたずら猫のトラ

「オレも連れて行ってよ」


 アシュレイは当然のように言った。

 翠もそのつもりでいた。ここでは、周りは人間か、魔法使いばかりなのだ。アシュレイを盾に翠の心臓を再び要求してくることも考えられた。


 連中が大人しいのは、ここが神の鎮座する聖地で、竜の心臓を取るような野蛮なことは自粛しているだけなのだ。

 いつ、先の長のような暴走する輩が出て来ないとも限らない。

 を早く、この危険な森から脱出させたのは成功であった。

 ……と、翠は思った。


『ところで、どうやって神殿に潜り込む気だい?』


 アシュレイが自信だっぷりなので、翠の方が心配になってしまった。


「翠君、忘れてるようだけど、オレは猫だよ」


『いや、忘れて無いけど……』


「翠君は、正攻法で、神官たちに話をつけに行ってよ。その間にオレが『ディッセイの剣』を持って外に出るよ。それを合図にお前も外に出て来て! ねっ? 良いアイデアだろ?」 


 アシュレイは、胸を張って言った。


『そんなに上手くいくかな~?』


「すばしっこくて、身体も柔らかいんだ。人間になんか捕まらないよ」


(うぅ!!確かに!!猫缶で釣ろうとしたくらいだものな……)


 アシュレイは、再び翠との冒険に胸を躍らせていた。



 ▲▽▲




『だから、あの剣は、魔族の持ち物だあって、人間のものじゃないだろ!!』


 翠は、三賢人と言われる神殿のトップの人間の執務室に乗り込んで、『ディッセイの剣』の返還を求めた。


 思った通り、三賢人は首を縦には振らなかった。


「もぉ!! わからずや!!」


 その時に、翠の耳にアシュレイの声が聞こえてきた。


《翠君、黒い剣を見つけたよ。オレはこのまま外に出るから、お前も早く来いよ!!》


(心臓の時といい……どうやって……?)


 翠は、少しの疑問を持った。


『もう良いです!!』


 身体を反転させて、急いで神殿を出た。

 神官たちが、『神剣の間』に何者かが侵入したと騒いでいた。

 『神剣の間』は、ぶ厚い扉な上に鍵までかけてあるというのに。


 翠は、大騒ぎになる前に神殿を出た。

 そして竜の目で、木の上にいるアシュレイを見つけると言った。


『アシュレイ、飛ぶぞ!!』


「良いよ」


 翠とアシュレイの最後の冒険が始まった。

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