第50話  夢に現れた魔族

 翠たちは、銀の森へ帰ってきた。

 アシュレイは、エリサルデの姿が無かったことを寂しく思った。

 翠は、何も言わなかったが、デュール谷へ帰ってしまったのだと思った。


 翠とニックは打ち解けて話している。


 ニックは、翠とアシュレイの関係が知りたいようだ。


『本当に赤の他人だってば!!』


 翠の言うことが信じられないニックであった。


 翠は銀の森では、ニックとアシュレイの側を離れないようにした。

 光りの一族は信用が出来ない。また心臓が盗られたら、との約束が反故になってしまう。それだけは避けたかった。

 人型で、出来るだけ気配も小さくして、人間のフリを決め込み、銀の森の繁華街にある宿屋で過ごすことにした。


 そして、ロイルの長たるエリシスに面会できる日は、早くアシュレイを元の世界へ帰すように頼みに行く日が続いた。


 アシュレイは、帰りたくないと言い張っていたが、このままの長居も召喚者にとっても、残された本来の地球にあるトラの身体のためにも、良くない状態なのだとエリサルデが、翠に教えてくれた。


 ところが、一族の長になったばかりのエリシスは、前長が引っ掻き回した混乱を治めるのが手一杯で、なかなか西域まで行って、送ってくれるという魔法をかけてくれる時間が無かったのだ。


「何とか、均衡のとれた世の中になってきました。翠殿の話された通りです。精霊を自然に返したら。魔族も減ってきました」


『だろ? だろ?』


 今日は、久々にエリシスに面会がかなって「今回こそは!!」と意気込んでいた翠であるが、エリシスの憔悴ぶりに言葉を失ってしまった。


『ロイルの長って、そんなに激務なの?』


「いえ、これは全てエスター様の起した問題の後始末が多くて……」


『アシュレイを、平和な時に帰して欲しいんだ……』


「もう、しばらくお待ちください。他の召喚士もあたっていますから……。翠殿こそ、天界を通じてこちらの世界に来たと言ってましたね。

 だったら、天界の女神を頼ったらどうですか?」


『あんな頼りない女神に頼むなら、君の手が空くまで待つよ!!』 


 女神のワードに思わず、飛びつきそうになった翠だが、イグニス女神を見たのは転生する時だけだ。

 しかも何の情報も教えられずに、竜にされて、いきなり魔族との戦いのまたっだ中の世界に放り込まれたのだ。


 翠は、女神にちょっとだけ恨みを持っていた。


 疲れた翠は、宿屋でニックとカードゲームをして直ぐに眠ってしまった。



《ちょっと……起きて……ティルスイザーク》


『え!? その名前を知ってるのは……? 風竜の仲間だけだよ?』


《風竜は、風に乗せて、世界中にあなたの名前を発信したわ。こんなことをするのは悪意のある証拠ね。他の風竜の巣でも歓迎されないようにされたのよ。おかげで私たちは、あなたに闇の力でコンタクトがしやすくなったわ》


 翠が、目を覚ますと闇の中から金色の瞳の魔族が現われた。

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