第五章 エセ勇者の冒険

第44話  エセ勇者の冒険の始まり

 エリシスは、エリサルデがとても気に入ったようだ。しかし、翠がエリサルデのそばを離れない。


 それで諦めて、アシュレイの姿を見た。

 前より幼くなって、可愛くなってる。

 一族の魔法使いが、あれこれ手を尽くして戦士に仕立てたのに、これでは台無しである。


「アシュレイ! こちらに」


 名前を呼ばれて、アシュレイは心臓がドキンとした。

 エリシスのことは、まだ怖いのだ。


「翠君……」


 アシュレイは、翠を見た。


『エリシス、アシュレイに何をする気だ?』


「勇者殿は、勇者殿に戻っていただきます。せっかく不死なのですから。役に立ってもらわなければ、召喚した意味もありませんから」


『アシュレイは、その姿で安定してるんだから余計なことをするなよ』


「では、戦衣をつけていただきます」


「え?」


「勇者殿に、任務をお願いしますもちろん、翠殿の助けは無しです。勇者殿は不死なのですから。したがって我らの行けないところへ行けると思います」


「それは何処?」


「魔族の巣の跡地の偵察です」


「魔族!?」


 魔族と聞いただけで、アシュレイはビビっている。


「安心してください。昔、そこにいた魔族は一掃されて近くに王国が建国されたのです。その時、英雄の力で残っていた魔族は南の地へ飛ばされたといいますが、それは千年も前のことです。

 今、その山がどうなっているのか見てきて欲しいのです。一人とは言いません。

 いっしょに行ってくれる人はいますよ」


 ニッコリ笑って、アシュレイを安心させようとしているのは明白だ。


『待てよ、エリシス。風竜のボクが行けば簡単なのに、何でアシュレイだけに行かせるんだよ』


 エリシスは、急に冷たい目になった。


「翠殿の心臓を盗んだ泥棒が分かったからですよ。意外とすばしっこくて、身体が柔らかいのですね? アシュレイ殿にピッタリの任務でしょう」


「勇者と冒険が出来るなんて、俺はやっぱりついてるなぁ」


「ガハハ」とアシュレイの後ろで笑うのは、翠に、精霊と魔法使いの契約を切る剣があることを教えてくれたニック・カールトンだ。


 アシュレイは、余計に怖くなってビビっている。


「あ……あの……」


「一度、心臓を取り戻すと、翠殿も、我らに心を開いてくれませんから……大変なことをしたのですよ。あなたは……償ってもらいます」


 アシュレイは、泣き出し、お漏らしをした。


「こりゃ、赤ん坊じゃねぇか?よしよし、俺は、八人兄弟の長男だ。面倒は見てやるぜ」


 ニックは、エリサルデからアシュレイの荷物を受け取ると、彼を抱えたまおさの館から出ていった。

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