第41話  番外編 風竜の娘の生い立ち

 16年前に、一人の冒険者がデュール谷へ立ち寄った。

 レフィニールに魔法剣(火の魔法使いが火竜の息吹で鍛えた特別な剣)を作って欲しいと言って来たのである。本来魔法剣は、神殿に奉納されるもので、一介の冒険者の持ち物ではない。しかしこの冒険者は、神殿やギルドが認めるSSSランクの勇者であった。


 神殿は、勇者の熱意ある願いに応えた。勇者には数え切れぬくらいの借りがあったからだ。

 そうして、火の魔法使いレフィニールは、剣士用の魔法剣作りを神殿から依頼された。


 勇者は、豪胆で不遜で礼儀知らずだった。

 怖いものは何もないと、自分でも言っていた。

「剣が出来たら知らせる」と言うレフィニールの言葉を尻目に「作っているところが見たい」と言って譲らず。

 何度、レフィニールが「火竜は危険な生き物だ」の忠告も聞かずに度々、レフィニールの仕事場を訪れていた。


 そして、ある日とうとう消滅したのだ。

 レフィニールが、リューデュールに経緯を聞くと、いつも昼寝を邪魔をしに来るので、ウザったくてひと息吹きかけたら、瞬時に消えたらしい。


 大きな溜息をつく、レフィニール。


(どうするんだ? 神殿に勇者が火竜を怒らせたと報告するのか?)


 レフィニールは、勇者の消滅を神殿に報告した。


 仕事場である火竜のいる谷と村は、少し遠かったのでレフィニールは、中間地点くらいのところに仮の小屋を作って住んでいた。来月には学び舎の同級生だった彼女とも結婚する予定だった。


 勇者は、そこへ転がり込んできたのである。

 

 勇者が身につけていたマジカルボックスが奇跡的にリューデュールの巣から見つかった。これをギルドに送る必要があった。


 しかし、中から音がしている。

 何が入っているのか、レフィニールは気になった。

 他人の持ち物だが、生き物であればマジカルボックスに閉じこめたりはしないだろうが……。

 ガタガタの音が気になって、レフィニールはマジカルボックスを開けてしまった。


 そこには、可愛らしい幼女がジッとレフィニールのことを見ていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る