番外編 風竜の娘

第40話  風竜の娘

翠は、魔法の解けかかっているアシュレイを背中に乗せて、デュール谷へ急いだ。


風竜の巣との決別は寂しいものだったけれど、大至急確かめたいことも出来た。

あの人間離れした魔力。大きな精霊をいとも簡単に操る技術。彼女はどうやって体得したのか……??


「翠君、エリサお姉さんが竜だと思ってるの」


『多分……だけど……間違えないと思う……いろいろ気になることも言ってたからね』


翠は、エリサルデのことを竜だと睨んでいた。

でも、おかしい。

エリサルデには、親がいる。

しかも、エリサルデは、父親だというレフィニールにソックリなのだ。


「翠君あそこに、女の子がいるよ」


ティエリ山脈からデュール谷への入り口に、一人の少女が立っていた。

薄茶色の髪が、風に揺れていた。


『エリサだ!!ボクたちの会話が、聞こえてたに違いないよ』


翠は、竜の身体からだに大分慣れていたので、人間と比べにものにならない程の差があることを体感していたのだ。


翠は、立ち尽くしていた女の子の周りを旋回しながら降りて人型になった。


「やっぱり、風竜の巣は追い出されたのね?」


『どうして分かるんだい?』


「風竜は、縄張り意識が強いのよ。後から来たものを仲間にするほど寛容でも無いらしいとのことよ」


『君は、風竜だね? 何故、人間のフリをしてるか知らないけど』


「決まってるわ。竜だとバレたら、心臓を取られてしまうもの」


エリサルデは、翠の方を見ずにアシュレイを抱き上げた。

翠は、申し訳なさそうにエリサルデに言った。


『アシュレイの姿をどうかして欲しい。猫に戻りかけているんだ』


「キジトラの耳がとっても可愛いわよ。獣人族としていけるかも」


「にゃーー!!」


アシュレイは嫌そうである。


「そうねぇ……獣人族は、魔族だし……」


魔族と聞いて、翠は怒りが身体に出てしまう。白金色の鱗が腕に出て来てしまうのだ。


「風竜の巣でよっぽど嫌なことがあったの?」


『いや、風竜の巣というよりも、大山脈の向こうの地でだけど』


「取り合えず、家に帰りましょうか……エセ勇者君の尻尾と耳は隠してあげるわ」


そういうと、エリサルデは呪文を唱えた。アシュレイの猫耳と尻尾が消えた。

アシュレイは、嬉しそうにエリサルデにまとわりついていた。

この間は(自主規制)を取られて泣いていたのにである。


「エリサ……君の両親も竜なの?」


翠の問いにエリサルデは、首を横に振った。


「あの人たちは、人間よ」

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