第38話  翠の怒り

 翠は、一人で魔族の巣に戻った。

 翠の帰りを待っていた丁氏の一族は、翠が一人なことをが分かると、アシュレイを翠の前に連れてきて、脅しをかけてきた。


「このチビがどうなっても良いのか!」


 ダンディン氏の村に入ったところで言ってきた。

 アシュレイの喉元には、毒の塗ってある

 剣があてられていた。


『無駄なことはやめろよ。アシュレイは不死身だよ?』


「お前こそ、我らとの約束を破って手ぶらで帰ってくるとは……許しがたいことだ。不死身の身体でも、魔法で強化されているだけのことだろう。我らとて、魔法は使える。少年にかけられた魔法を解けぬと思っているのか?」


『それで?ボクを脅してる気なの?』


 翠は、人間の村から帰ってくる時から怒りでいっぱいになっていた。

 皮膚は、白金の鱗が浮き上がり、竜の身体に変わる寸前だったのだ。


 翠は竜身になって、彈に息を吹き掛けた。怒りのこもった息吹きは、炎を伴い彈の身体をあっという間に灰にしてしまった。


『アシュレイ! こっちへ来い!! この村を焼き払ってやる!!』


アシュレイは、魔力を奪われて、猫の耳と尻尾が出ていた。


「翠君!!」


「止めてくれ!! 俺たちは、ディン一族の若者なんだ。古い世代から未来を託されているんだ。もっと、北に村を移動するから……」


『うるさい!! 人間の敵め!!』


 翠は、怒りに燃えていた。

 魔族に対して、なす術もないこの地方の人間にも絶望したのだ。


 そんな自分に出きることは、魔族の巣を一つ減らすことだった。


 翠は、火を吐きまくった。

 魔族はよく燃えた。火が弱点の種族だったのだ。


 全てを灰にして翠は、アシュレイを背中に乗せて飛んだ。


「翠君……やりすぎだよ」


『そう?でも、ここじゃ誰も退治しないじゃん?北の地方は、光の一族とか存在しないもの。だから、魔族ばっかり増えてしまうよね』


「もう帰ろうよ、翠君」


 翠は、人間の村まで出て、そこから南に向かって大きく羽ばたいた。


 やがて、空を突く大山脈が見えてきた。

 翠は、行きよりも軽々と大山脈を越えることができた。


 このまま、風竜の巣に戻ろうと思った。

 水竜の名前は聞けなかったが、自らが神だと名乗っている。

 それを言えば良いだろう。


 翠は、楽観的に思った。





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