第37話  久々の人間の村

 翠は、久々に人間の村の前に立った。


 魔族の村で鏡を見たら、翠は外人のような外見になっていて驚いた。

 魔法の力で人間の姿になるので、黒いTシャツとスキニーのジーパン。愛用のスニッカーズのスニーカーは、変わらずにあったが、翠の外見は完全に風竜が人型をとった時の外見になっていた。


 畑仕事をしていた村人が、翠を見つけて驚いて逃げて行った。


 誰かに声をかけようにも、みんな、家に閉じこもってしまう。


 勇気ある老人が、香木を持って翠のもとへ訪れた。


「ワシを連れて行けばよい。この村で、一番の年寄りはワシじゃ

 いつものように、拐ったりせずに村まで来るとは、どういう了見じゃ?」


 この時翠は初めて、共通語の方が、頭の中で変換されていることに気が付いた。

 そして、翠が魔族に間違われてることにも……。


 ここの住人は、日本人の翠と同じ、黒髪に黒い瞳の人種だった。

 でも今の翠は、日本人には見えない外見なのだ。

 そして、金色の瞳の魔族と、良く似た外見をしていた。


 思えば、この北の地方は、贄を差し出して、他の者が生き延びるという慣習があるようだ。


『おじいさんが、贄なの?』


「そうじゃ、連れていけ」


 翠は、この村の人たちを憐れに思った。


『どうして、もっと住みやすい気候のところに住まないの?』


「おかしなことを言う魔族だの~? 我らは、魔族から逃げ続けてここにたどりついたのじゃ」


『魔族と戦わないのですか?』


「都のほうでは、討伐隊を組んでいるそうだが、こんな田舎までなかなか来てくれぬよ」


『そうなんですね……』

 

 翠は、老人の目を見て言った。


「お前は、何者なんだ? 魔族でもないのにその外見は?」


『ボクは、竜です。魔族の村に迷い込んで友達を人質に取られたんです。人間を連れて来いって言われた……でも、間違えだった。ボクだってもとは、人間だったんだ! 魔族の味方をするわけには行かないよ』


 老人は、翠の言葉を信じて良いのが分からずに困惑していた。


『新しい魔族の巣から、ここは近すぎるよ。出来れば移動して。村の四方を香木で守ってよ。ボクに触れたときに火傷をしてたから、火に弱いタイプなのかもしれない』


「わ……分かった」


 翠は、そのまま、身体を反転させて、村をあとにした。

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