第33話  翠の弱点

 この湖周辺のテルヌ地方では、死者を湖に葬る風習があり、水竜が死者や、贄となった人間を食べることで、豊作や繁栄を約束していた。


 この地方にとって、水竜は神であった。

 湖の中心に水竜を祀る神殿があり、贄は三年に一度、20代の女性が選ばれていた。


「ねぇ、フェロゥさん。その……ここのルールが分からないけど……ボクは、竜だよ?でも、人間と出来ちゃった訳?」


 フェロゥは、急に顔を赤らめて言った。


「困りますわ、翠様。わたしと寝たことにしてくれないと神官長に叱られます。翠様の(自主規制)があまりにも立派で、私には無理でした。神官長たちは、翠様のことを人間だと思っています。だから、水竜様のおやつにさせようとしてるのです」


「信じてもらえなかったんだ。僕は、風竜だと言ったのに……」


「水竜様に用ですか?」


 フェロウは、衣服を整えて改めて翠に向き合った。


「水竜には、どうやったら会えるか知ってる?」


「神殿の奥に地下に続く階段があります。その前に祭壇の鈴を五回鳴らしますと、地下階段の扉の向こうに水竜様がいらしているそうです」


「良く知ってるね?」


「これは、先代の贄巫女が、次の贄の巫女が決まった時に教えていくことです。来年には次の巫女も決まりましょう」


「そんな風習やめればいいのに!!」


 翠は、急に怒り出した。


「誰かの犠牲の上にある幸せなんて、本当の幸せじゃないよ!!」


 翠の身体に白銀の鱗が浮いて来て、それを見たフェロウが悲鳴を上げてしまった。

 それで、何人かの人が、翠の部屋にノックも無しに入って来たのである。


 翠はスッポンポンのままである。


 白銀の鱗に包まれた、翠の裸を見たテルヌの人達は、翠を魔族と勘違いして、強力な眠り薬を翠にぶちまけて大人しくさせた。


 翠が次に目覚めたのは、地下の大きな扉の前である。

 近くには、アシュレイもいた。


「翠君!!大丈夫?」


「頭がズキンズキンするよ~ここの薬って、向こうよりきついんじゃないか?」


「お前は、もっと慎重になるべきだと思うよ」


 小学生のような、アシュレイに言われて、翠もショボンとする。


「この扉の向こうが、湖の中だ。アシュレイ?ここに降りる時に鈴が鳴ったと思うけど何回鳴った?」


「祭壇の鈴のこと?五回鳴らすと水竜を呼ぶ合図なんだって。オレらは水竜のおやつらしいよ」


「風竜をおやつに出来るなら、してみたら良いんだ。あ!!アシュレイには、水の中でも大丈夫なように水の加護をつけといてやるから、怖かったら、先に岸に戻ってろ」


「ありがとう……でも、お前人が良すぎて交渉事がスッゴク下手なんだモン。見ていられないよ」


 いつも、泣いてばかりのアシュレイにキッパリと言われてしまった。

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