第29話  竜族の試練

『レトア語も話せぬ痴れ者か?』


「でも、仲間なんだし……ここで暮らしても良いでしょう?」


 翠は、白金の鱗を持つ風竜に言った。


『その網にいる子供は、お前のペットか?』


「可哀そうなこと言わないでよ。アシュレイは友達だよ」


『そなたも、人間の匂いがプンプンするな。人間の世界から来たのか?』


「いい意味でも、悪い意味でも、世話にはなったけど」


『多分我らが、そなたを仲間として認めることは無いだろう……。が、今から長老にそなたのことを話してくる。それ次第だ。翠と言ったか?我が名は、セルティスだ。次の長となるものだ』


 セルティスと名乗った若い竜は、高い岩肌にある洞穴の中へ入っていった。そこに風竜を束ねる長がいるのだろう。


 翠は、緊張して待つ羽目になった。

 風竜の巣に来れば、無条件に受け入れられると思っていたのに大違いだ。

 大型の竜に囲まれて、アシュレイはお漏らし全開であった。


 一刻すると、セルティスが戻って来た。


『長の命令だ。「このまま、まっすぐに大山脈を越えると、水竜のいる湖がある。その水竜の名を聞いてまいれ」とのことだ』


「ボク、この世界のことは、何も知らないんだよ。どうすれば良いの?」


『自分で、考えるのだな。それも試練の内だ』


 セルティスは冷たく言い放った。


『今日から、三日待つそうだが、三日待っても戻って来なかったら、そなたを仲間とは認められぬ。何処ぞで暮らすが良い』


 セルティスの口調からは、同情や、憐みみたいなものは一切感じられなかった。馬鹿にしてあざ笑っているように感じた。


「アシュレイを置いていっても良いかい?」


『駄目だな。人間は、子供でも油断はできない!!連れて行け』


 セルティスの言葉に、翠は怒りを感じてしまった。

 意図した訳では無いが、雷をその場に落としてしまった。

 それが運悪く、セルティスの翼に落ちてしまったから、周りは大騒ぎになった。


「翠君、この隙に行こうよ!!」


「何処かでパンツを履き替えてだろ!!」


「背中に乗るのは大分慣れたよ。竜がたくさんいて怖かっただけ!」


 アシュレイも少しずつ逞しくなったようである。


 翠は、そのまま北へ向かい、天を突くような大山脈を、どうしたら越せるのか考えた。

 まず、山の高さだ。

 山脈であるが、高いところ低いところがある。

 その低めのところを目指して、飛んで行った。

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