第26話  火竜、リューデュール

「俺の仕事場に来てくれ」


 翠は、レフィニールに連れられて彼の仕事場だというところまでやって来た。そこは、はぐれ谷よりも遥かに奥地にある場所で、とても暑かった。


(なんで、こんなに暑いんだろう?)


 翠は、頭を捻ってしまった。


 レフィニールが、呪文を唱えると違った景色が見えてきた。

 大いなる存在が、ここには隠されていたのである。


「まさか……? 竜?」


「そのまさかだ。竜は竜でも火竜だがな。魔法剣は火竜の息吹で剣を作るのだ」


「ふ~ん。で、何をすればいいの?」


「風香石という鉱石に息を吹きかけてくれるか?この石は、風の力をとじ込めることの出来るこうせきなんだ」


 レフィニールは、両手で持つくらいの鉱石を持ってきた。


「もちろん、竜になってだよね?」


「当り前だ」


 気乗りはしなかったが、翠はレフィニールの前で竜身になった。

 人間としては、身長が高いレフィニールも、竜の翠からすれば小人のようである。

 彼から、欠片のような鉱石を受け取って、「ふぅ」と息を吹きかけた。

 レフィニールは、満面の笑みであった。


「これで、珍しい魔法剣が作れる」


 鉱石をレフィニールに返して、人型に戻ろうとした翠の前に、赤い鱗を持った竜が現われた。


『レフ、我が巣に他の竜を招き入れるとはどういうことじゃ?私への挨拶は後回しか?』


『すまん、すまん。許してくれ。珍しい風竜だったので、風香石に力をもらいたいと思ってな。挨拶はさせる』


 続けてレフィニールは、竜の姿のところまで飛んできて翠に言った。


「火竜のリューデュールだ。心根の優しい火竜だ。挨拶を頼む」


「ボクは、この世界で他の竜を見たことが無いんですよ!!どうやって挨拶すれば良いんですか?」


「普通はレトア語でするものだが、リューデュールは人間に慣れているから、そのままでかまわんだろう?」


 火の魔法使いレフィニールは、さすがに火竜の巣が仕事場だけあって、風の加護もすごいようだ。エリシスに負けないくらいに飛んでいる。


 翠は、ヤケクソになって、


「火竜のリューデュールさん、勝手にお邪魔して御免なさい。ボクは、風竜の翠です。こんにちは!!」


 白銀の鱗を持つ風竜の翠より、大きな赤い鱗の火竜と対峙した。

 火竜のリューデュールは、しばし翠を見て、ゲタゲタと火を吐いて笑い出した。


 翠は、その火で火傷をすることは無かったが、熱さは感じた。


「あの?」


『面白い挨拶をどうも』


「聞きたいことがあります」


『何じゃ?』


「リューデュールさんは、何時からここにいるんですか?」


『二百年ほど前に起こった魔族とのいくさの折に、いにしえの時代より召喚されたものだ。戦いが終わってからはずっと、ここに居る』


「召喚されたのなら帰れるはずではないですか?」


『それは、人間の勇者召喚じゃ。肉体が召喚されたところに残ることになるから、この世界では不死なのだ』


「そうなんですか……」


『それより、翠、そなたは仲間のもとへ行かぬのか?』


 リューデュールが急に、話題を変えてきた。


「途中で迷子になって、この谷に辿り着いたのです」


 笑われると思ったので、始めから、姿勢を低くして防御の体勢を取った。

 案の定、翠の身体の上を物凄い炎が通り過ぎて行った。


『迷子……? 迷子……? 竜のそなたが!!』


「ボク、異世界からの転生者です。この世界のことは何も知りません」


『そうか……』


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