第25話  魔法鍛冶士のレフィニール

「エリサ……。この、竜もどきのと猫もどきは何だ?」


 エリサルデは仕方がないので、翠とトラを村から少し離れた自分の家に連れ帰った。一人では判断が出来かねたためだ。

 実際エリサルデには、その力はあったが、その後のお仕置きが面倒だったのだ。


「う~~ん……父様でも分かるわよね~~ 人間離れした気配と、子猫並みの気配しかないのですもの……」


「エリサ!! オレが言いたいのは!」


 筋肉質で、腕っぷしの強そうなエリサルデの父、レフィニールは、彼女と同じ薄茶色の髪と茶水晶の瞳を持っていた。


 火の魔法使いで、魔法鍛冶士という特別な職業がら、村の中には住まずにはぐれ谷と言われるところに娘と二人で住んでいた。


「二人とも、人間のフリが下手だということよ」


「え?」


「ええっ!?」


 声の大きい方が翠だ。

 もと、地球世界の人間で、自分ではまだ人間の頃の記憶がある翠は驚きだ。


「もう竜になって、しばらく経つのでしょう?その内、共通語も喋れなくなるわ。竜は異種族間言語のレトア語を使うもの。

 あなたは、竜族で大きな気配を小さくする方法を学べばいいのだけど、子猫ちゃんはねぇ~ この子はもともと臆病で大人しい性格ね。

 勇者召喚になんて巻き込まれてなければ、普通に暮らしてたのに……」


「そ、それは違うよ……オレは、翠君が助けてくれなければ死んでたんだ……だから……翠君の役に立ちたいんだよ」


「あらあら、そんな関係なのね……で? 何処へ行く気だったの?」


 エリサルデが聞いて来た。


「風竜の巣が、ティエリ山脈の東の方にあると聞いて飛んで来たのですけど、迷子になって」


 翠は、正直に言うと、仕事を終えて酒を飲んでいたレフィニールが大笑いをした。


「風竜のが迷子とは!! 人間臭い竜だな!!」


「風竜の巣のことはご存じですか?」


「さてな……風竜は心臓や、卵を人間に狙われるので人の前から姿を消して、もう百年は経つと言われてるからな。あまり仲間の居場所をあちこちで聞きまわるのも感心できないぞ」


 レフィニールの言葉は重かった。

 確かに竜の卵は、万病に効くというし、心臓はその美しさと珍しさで、珍重されると聞く

 人間の魔法使いと、冒険者には注意が必要だ。


 人間の魔法使い……エリサルデの左肩には、緑の葉っぱの髪の透き通った精霊がいた。


「エリサ……君はボクの心臓を取り出せるのかい?」


 大地の力を持つ魔法使いが、翠の心臓を取り出したことを思い出したのだ。

 エリサルデは、興味が無さげにあっさりと言った。


「出来るけど、いらないわ。ここにあっても仕方ないものだもの。それより、父様。子猫ちゃんの魔法を直しても良い?キジトラの髪はそのままにして、もう少し、可愛くしてあげたいわ」


 エリサルデの興味は、トラの方にあったようだ。


「そうだな……もしかしたら、火竜ならば何か知ってるかもしれない。風竜殿の風の力を魔法剣を作るのに貸してくれればな、デュール谷の火竜を紹介するぞ。 フム、明日になれば、エリサの母が銀の森から戻って来る。神殿所属の魔法使いだ。通報される前に急いだ方がいいだろう」


 親子の間で翠とトラの処遇が決まったようだ。





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