第23話  デュール谷

 ティエリ山脈は、大陸を南北に横断する大山脈の南側にある山岳地帯だ。

 西の古皇国、ヴァーレンに西の国境から中央部まで、大山脈に沿うように連なっていた。

 風竜の巣は、山脈の東の端にあった。


 翠は、風の奥方が教えてくれた、頭の中の地図を頼りに次の日から、ティエリ山脈の中を東に向かった。


 こういっては何だが、竜の翠は同じ属性の風を感じることで腹が満たされたし、転移者で不死のトラは、この世界ではお腹が減ることもない。

 コスパの良いコンビだった。


 翠は、仕方がないと思いながらも、トラには三重のパンツを用意した。


「翠く~~ん」


「君は、まだ赤ちゃんだからね」


 三重のパンツに抵抗のあったトラに、翠は、赤ちゃん発言で黙らせた。

 毎度、毎度背中でお漏らしされては、(……)である。


 しかしティエリ山脈の中で迷ってしまった。

 同じような岩肌の山が続いているのだ。

 真っすぐに東に向かって飛んで出ていたたら、人間の住んでる谷の村に出てしまった。


「あれれ? 人里?」


「翠君、ここは何処?」


「ボクに聞かれても……」


 人のいないところで、翠は着地して人型になった。

 人間の姿になって、ここが何処かなのと風竜の巣への行き方の情報を探る必要があったのだ。


 心臓を取られた経験のある翠は、飲み物には決して口をつけないと決心して村の中に入っていった。


 この谷の村は、絵本の中のような世界だった。

 たくさんの精霊がいる。そして、精霊が人間の生活の中に溶け込んでいるのだ。


 釜戸の火の調節、粉引きの風車の風の調整、畑を耕すことさえ、みな当たり前のように精霊を使って暮らしていた。


 最初に翠に気がついたのは、翠と同じくらいの女の子だった。


 薄茶色の髪と茶水晶色の瞳で、肩の少しまで伸ばした緩いウェーブのある髪を後ろで一つにまとめていた。

 大きな目の可愛い女の子だ。


 翠とトラを見つけると、ジッと見つめていた。

 あまりぶしつけなので、


「な、何?」


「喋ったわ!!」


 少女は、驚きである。


「だから、なんだって言うんだい?人間だから喋るのは、当たり前だろう?」


 少女は、首を振って答えた。


「嘘だわ、あなたたち人間じゃないわ。竜と猫でしょう?変わった取り合わせね。なんで、人間のフリをしてデュール谷に来たの? ことによっては、大事になるわよ」


 



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