第22話  トラとの旅の始まり

「翠君の優しさと、正義感が選ばれてたんだよ」


「ボク!?」


 翠は、困惑してしまった。

 でも翠は、竜としてここにいる。


「その前にお前は、トラックに跳ねられてしまって、この世界に転生させられた。オレが、本来お前のいるべき位置にいたんだ。エリシスの腕が悪い訳では無いんだよ。地球のほうで、タイミング悪く、事故が起こって、お前は、女神に拐われた。オレは、お前の代わりにこの世界に召喚されたんだ」


「でも、猫のトラが何で人間の格好をしてるんだよ?」


 翠は、一番の疑問を口にした。

 確かにこの世界は、違う種族に生まれ変わることもあるようだが、子猫のトラが、翠とほぼ年の変わらぬ少年の姿になっている事情が分からない。


「この世界に来た時は、子猫だったし、言葉も知らなかったよ」


「魔法使いたちの力だよ」


「?」


「召喚時に猫の僕が現われたから、エリシスの召喚士としての腕を疑われてたんだ。長や複数の神官には見られたからね。でも、エリシスは失敗にしたくなくて、秘密裏に大地の魔法使いが集められて、一時的に猫のオレにこの姿を与えたんだ。言葉は、風の奥方が教えてくれた。名前を付けたのもエリシスだよ。ここの古い言葉アシュレイ・ロット(支配される者)という意味らしい」


「酷いな!!」


「そう思ってくれる?オレは君にはトラと呼んで欲しいんだ」


「分かった。竜のボクと旅をしよう。背中の乗り心地はどうだい?」


「怖くて、ちょっとチビったけど……ちょっとだから……」


 人型に戻った翠は、慌てて背中の臭いを確かめ、少し、トラのおしっこの匂いがしたので(竜なので鼻も敏感)、水の精霊と火の精霊を喚んだ。


「トラは赤ちゃんだから、仕方ないか……」


 翠は、諦めたように独り言を言った。


「分かったよ。そのうちに慣れるだろ僕だって、慣れたんだ。

 飛ぶことは気持ちが良いことだよ」


「うん、オレ、翠君となら頑張るよ」


 二人は、改めて握手して抱き合った。


「魔法が解けたら、オレは猫に戻るけどそれまでは翠君の傍にいたいよ」


「ありがとう、トラ……」


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