第20話  脱出

 翠は、気が付くと竜の方の巣に戻されていた。


 あれから、アルゲイ族も姿を現さなくなり、魔法使いが減ったことで、魔族が闇の深淵から生まれることは無くなったようである。


 翠は、胸にポッカリ穴が空いてしまったようだ。

 竜の心臓は貴重なので、大事にされていると思っていた。

 だが、ロイルの長には通じなかった。


(あれが、この世界の秩序を作ってる神の子孫だなんて!!)


 ショックで竜の姿に戻ってしまったようだ。


(これで、一生魔法使いたちの手先にさせられるのか……)


 翠は落ち込んでいた。

 寝床に敷いてある。柔らかい草に大きな頭を沈ませた。

 溜息しか出て来なかった。


(こんな思いをして、生きていくなんて……)


 風の奥方のくれた力もあったが、やはり自分の心臓とは違う。

 代用品は、代用品でしかない。


 すると、翠の巣へ、走って来る人間の姿が見えた。

 人間は、全く信用できなくなっていた翠だが、首を持ち上げて誰だか確認した。


 エセ勇者のアシュレイ・ロットであった。


 アシュレイが後ろを気にしつつ、こちらへ小走りでやって来た。


「翠君!!」


「アシュレイ。どうしたんだよ、そんなに慌てて」


「翠君、これ!!」


 アシュレイ・ロットが、皮の鎧の中から取り出したのは、さっき、壊されたはずの虹色の『ぎょく』だった。


「なんで? さっき壊されたはずなのに……?」


「あれは、偽物だよ。翠君が魔族の剣を取りに行ってる間に、エリシスが偽物を作ったんだ。せっかくの竜の心臓なのに、長は信用出来ないって。だから、彼らで、偽物を作って長の部屋に保管させてたの。オレは、入れ替えの時を狙って、盗んで持ってたんだ」


「でも、エリシスだろ? 風の奥方が知ってるかもしれないよ」


「風の奥方は、翠君の身体のことを考えてくれてるんだよ。長の今回の所業は、神官から神殿に伝えられるそうだから……。逃げるなら今だよ!! 翠君!! オレも連れて行ってね」


「アシュレイ……」


 翠は勇者から、『玉』の心臓を受け取った。


 受け取った瞬間、一時的に身体が硬化した感じがした。が、直ぐにパリンと音がして何かが弾け、翠は体が軽くなったことを感じた。

 心臓を取られる前と、同じ体調になった。

 身体の重怠さも無くなり、喪失感も無くなった。


「よ~~し!!風の奥方に聞いた風竜の巣を目指そう」


「オレも忘れないでよ!!」


「きみは、人間だろ?ここに残ってた方が良くない?」


いくさが終わったら、みんな東方の銀の森に帰るんだよ。オレはそこが何処か知らないし、何より、オレはお前といたいんだ」


「アシュレイ?」


「オレは、アシュレイじゃないよ!!」

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