第19話 ロイルの長と翠
「そなたが、魔法使いと契約を切った竜か!?」
ロイルの長のエスターは、プルプルと震えながら人型になった翠を怒鳴りつけた。
翠は、ちっとも怖くなかった。
良く見れば、翠のあったイグニス女神に似ているがそれだけである。お
「ボクの心臓を返して、仲間のところへ行かせてください!!」
翠は真っすぐに、エスターの目を見て堂々と言った。
「竜の分際で生意気な奴だな……」
エスターは、不気味に笑った。
「あんたが一族の長なんて、誰が決めたんだよ!! 皆を苦しめる戦争を始めるなんて!!」
「私が、神の直系の子孫だからだが? 何か文句でもあるのかな?」
「あんたの一族が、この世界の人間を導いてるのは分かったよ。なら、もっと、別の方法で、みんなを幸せにすれば良いじゃん」
「実に、生意気だ。ザイラス。この者の心臓をここへ持って参れ」
エスターは、神官服を着た禿げた銀色の瞳の男に命じた。
翠は、嫌な予感がした。
やがて、翠の前に拳大の虹色に輝く球体の
「これが、何か分かるか?」
「ボクの心臓……? か……」
「この心臓は、高価に売れるのだ。西域辺りで売りに行って、二度と心臓を取り戻せない竜となっても良いか?」
エスターの顔は限りなく歪んでいた。
「それともこの心臓は、取ったばかりでまだ、柔らかい。この場で握り潰してやっても良いのだぞ」
エスターは、ザイラス神官の持って来た虹色の球体を手に取った。
高価だという竜の心臓も、ロイルの長にはただの玩具でしかないようだ。
「やめろ!! 人の命を何だと思ってるんだ!!」
「そなたは、人にあらず竜族だ。私もただの人では無い。神の血を引く選ばれた者なのだ。故にこの世のことは、私が決める。邪魔をする者は竜のそなたとて、許しはせん!!」
エスターは、玉を片手で持って、思い切り握り出した。
「や、やめろぉ!!」
エスターは大地の力で、握力をあげているようだった。
翠は見ていられなかった。
(ボクの心臓が……ボクの心臓が……)
ついにまだ石化して間もない竜の心臓の玉は、「パリン」という高い音よりも、鈍い音をたてて、粉々になったのである。
目の前で自分の心臓が、無残に潰されたのを見た翠は、ショックのあまり気を失ってしまった。
(人間の味方をして欲しい……ラルカはそう言ったけど出来そうにないよ)
エスターの馬鹿笑いだけが、翠の耳にいつまでも残った。
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