第17話  魔族の美人なお姉さん

 翠は、空中にいるのが疲れてきたので、人型に戻って、地上に降りた。

 地上は、熱帯雨林気候のためにジャングルになっていた。

 これでは、(人型でもあぶないかなぁ~)と考え、翠は大きな樹の上でアルゲイ族を待つことにした。


 そうこうするうちに、雨が降って来た。

(雨!?アルゲイ族のおじさんが、来れないんじゃないじゃん?)


 やはり、熱帯雨林気候のようだ。見る見るうちに空が暗くなり、滝のような雨が降り始めたのである。


 人型の翠もビッショリ濡れた。


『水の加護も風の加護もあるのに、使わないなんて馬鹿じゃありませんの?』


 下の方から、声がした。これも脳内変換の日本語なので、魔族が来たのだと直ぐに分かったが、水に弱いアルゲイ族が、(こんな時に外に出て来るのか……?) 翠は頭を捻ってしまった。

 地上には、人間にしか見えない女性が翠を見上げていた。

 背中には長い筒のようなものを背負っている。


 銀色の髪を肩の辺りで切りそろえた髪型。金色の瞳は、翠の好きな猫を思わせた。


「君、魔族なの? 人間じゃなの?」


『あたしは、ディン族のオーキッドよ。先祖は大山脈の北の地方らしいけど、向こうの土地が住みにくくなって、先々代のじい様の時にここへ来たの』


「人間じゃないの?本当に?」


『ディン族は、人間の外見に近い種族なの。人間を油断させるために、外見に進化したのです』


 翠は、オーキッドの前に、飛び降りて行った。

 先程、オーキッドに言われた火の加護と風の加護のことを思い出して、服を乾かして、風で雨を遮っていた。


『なるほど、風竜殿。あなたは、既に心臓が取られているのね?それであえて、魔法使いを減らすような真似をするのは何故かしら?』


 オーキッドは、手を差し出した。


 翠は、嬉しくなって手を握り返した。

 その途端、「ジュッ!!」と焼ける音がした。ビックリする翠。


『迂闊だったわ。火の加護もあったのね。でもさすがに竜からは、精力は抜けないわ……』


「大丈夫?」


『これくらいなら、直ぐに治るわ』


 オーキッドは、しばらく考えていたが、背負っていた包みを広げた。


「それが……」


『『ディッセイの剣』よ。魔王は、人間にやられるほど柔じゃないけど、今のアルゲイ族ばかりがごろごろ増えていく状態も良く思ってない』


「増えているのはアルゲイ族だけかい?」


「ええ、少なくとも、あたしたちディン族は、人間と同じ営みで命の生産をするわ」


 そこまで言うと、オーキッドは言い過ぎたと黙ってしまった。

 そして黙って、剣を翠に差し出した。


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