第16話  マラ山は高温多湿とアルゲイ族のお出迎え

『大陸の南の半島の山』『あらゆる魔族の巣』


それだけが手がかりだった。

翠は、ひたすら南を目指して上空を飛んだ。

低空では、人間に見つかって、またややこしいことになりそうだったからだ。


風の奥方のくれたぎょくのおかげか、心臓の無い喪失感も、身体が重怠いことも無かった。

風の奥方がなぜ、翠の味方をしてくれたのかは謎であったが、翠にとっては、嬉しい誤算である。


竜の羽で半日ほど飛んだら、真正面に水平線が見える所まで来た。


問題は、どんな魔族がいるかだ。

翠は、アルゲイ族しか知らない。

(他にどんな魔族がいるというのだろう……)


それにしても、暑かった。

気温よりも暑く感じるのは、このねっとりとした湿気のせいだ。

竜の気配を感じ取った、アルゲイ族が団体でお出迎えだ。


「懲りないなぁ~」


『待て!! 翼をはばたく前に聞こう。何の用だ?我々は、今、闇の深淵より同族のモノが生まれ忙しい。そして数でも勝っている。如何にお前が竜だとしても、我らを一掃するのは、大変な労力だと思うぞ』


魔族が喋ってきた。喋ってる言葉はチンプンカンプンだが、翠の脳内で日本語に訳すことが出来た。


「ボクね~君たちの持ってる『ディッセイの剣』を取りに来たんだ。君たちも困らない? これ以上魔法使いが増えて、仲間が殺されていくのを見てるのは」


『精霊と魔法使いの契約を切る剣のことか……お前はどちらの味方だ?』


「どっちかって言うと、元人間だし、でも魔法使いたちの考え方は間違ってると思うんだ!!」


『闇の深淵より、仲間がどんどん生まれてきていると言っただろう……今こそ、長年光の一族に虐げられてきた恨みを晴らす時なのだ。

邪魔をせぬというのであれば、魔王に進言して『ディッセイの剣』を借りられるように伺いを立ててくる。竜殿は、そこでしばし待たれよ』


とんぼの様にいくつもの小さな目で、翠を観察していたアルゲイ族の筆頭が、団体に巣に戻ることを命令した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る