第15話  出発の前に……

 人間は、夜になると眠りにつく……。

 という習慣はどの世界でも同じであるらしい。

 夜更けに翠は、アシュレイとのテントを抜け出して、野営地の入り口の方へまで移動して、竜身となった。


 そうして一気に南に向かって、飛び立ったのだ。



 ▲▽▲



 テントを抜け出す時に、むっくりと、アシュレイが目を覚まして起き出した。

 翠は、良く眠っていると思っていたのでビックリだ。


「逃げるの? 翠君、心臓を取り上げられてるのに?」


「……違うよ。この馬鹿げた戦いを終わらせるためだよ」


「オレも連れてってよ!!」


「今回は、ちょっと無理だな。魔族の巣へ行くんだ。でも、絶対心臓を取り返して自由になるよ!!」


「オレが探しておくよ。狭いところなんか、入るのは得意だから」


「猫みたいな奴だな……」


 翠の言葉にアシュレイは、「へへへ」と頭を掻いた。


「じゃあ、行ってくるから……」


 翠は、小声で言って、テントを出たのだった。




 ▲▽▲




 翠は、近くで風の奥方の気配を感じた。


「ついて来る気?」


<いいえ、『魔』の気配は、わたくしとっても天敵ですもの>


 透き通った奥方が、身体があればどんな男も虜にしたに違いないくらい肉体美のように視えた。

(ボクの妄想かな~)


「じゃあなんで、ボクの隣を飛んでるのさ? エリシスの差し金?」


<違いますわ。不完全のお身体で、敵の巣まで行くだなんて無謀ですわ。これを持ってお行きになって下さい>


 翠の竜の手には、不思議な色をした輝く小さなぎょくが握られていた。


「何? これ」


<わたくしの力の一部を、翠さまにお分けいたします>


「奥方には、自分の意志で動ける力があるんだね?」


<この世の創世から、生きていますもの。風の奥方と呼ばれてますが、大地の力も、水の力も、火の力もございましてよ>


「でもなんで、ボクに協力してくれるの?」


<翠様が終わりの見えないいくさを終わらせてくれるなら協力しますわ>


 翠は、一瞬、透き通った奥方が笑ったように視えた。


<心臓を失って、不自由になった分をその玉で補いくださいませ。ぎょくは、いずれ翠様に吸収され、翠様の力の一部となりましょう>


 竜身の翠は、風の奥方にペコリと頭を下げた。


「奥方は、今の魔法使いの在り方に反対なんだね」


<今の長が当主になった途端、魔法使いの人数を増やして、無理な魔族狩りが始まりましたわ。生まれたての精霊もどんどん契約されて、魔族を殺しても殺しても、一向に減らないのですわ>


「ボクが魔族のところへ行って、精霊との契約を切る剣を取って来るから、風の奥方は、普通の人間になった人たちを何処かに送ってよね」


<お任せください。では、お気をつけて>

        

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