第13話  魔族との戦い(2)

 この戦いは、大昔のシードック王国の建国の折に附近の魔族の巣を一掃した時よりも、激しい戦いだったと後の記録には残っている。


 実際は、どうであったのであろうか____


 魔族の弱点は、良く研究されているようであるが、やはり数で圧倒されてしまっている。

 スズメバチのような大群のとんぼの目をした羽を持つアルゲイ族が、魔法使いの陣営をピンポイントに襲ってきた。


 鋭い爪を持つアルゲイ族は、人間の皮膚を裂いて血を啜る、獰猛な種族だ。

 

 翠は、魔族がやって来る最前線に廻された。


 大地の魔法使いたちによる結界が張られ、水に弱いとされる種族なので、水の魔法使いが、雨を喚び、翠は、空中で翼をひろげて、奴らを待った。

 飛んで来たら、羽ばたいて落下させる作戦だ。


「何か幼稚だよな~~」


「翠殿、長の立てた作戦に不満でも?」


 翠ともに、来襲に備えていたエリシスは、翠の独り言を聞き逃してはいなかった。


「ボク、まだ長って人に会ってないよ」


「あなたの心臓を取ってる間に、銀の森から呼び出されてましたから」


「銀の森?」


「我らの故郷です。リドムの葉が一年中枯れない美しい森です」


「ふ~~ん。でも、作戦が幼稚くさくないかい?」


「長は、一族を率いる方です。間違えは有りません」


 エリシスは、自分にも言い聞かせるように大声で翠に言った。


 そこに「ぶーーん」と、蜂の羽のこすれ合うような大きな音がした。


「アルゲイ族の来襲だ!!」


 見張りの風の魔法使いが、飛んで来た。


 翠は、以前一羽ばたきで撃退してるので自信があった。

(十分に引き付けてやる……)


 翠は陣営から、抜け出し川の上でアルゲイ族を待った。

 羽ばたいて、川に落としてやるつもりだった。

 水に濡れると、羽が使い物にならないので、戦意も失せるらしい。

 水に落とせば勝機はあった。


 第一陣が飛んできて、竜の翠の前で止まってしまった。


 仲間を呼んでいる。

 20匹くらいになったので、一斉に翠に飛び掛かってきた。

 しかしアルゲイ族の鋭い爪も固い鱗を持つ翠の前には、爪とぎ程度だ。



 これらを十分に分からせたうえで、翠は反撃に出た。

 思い切り羽をはばたかせた。

 何匹かのアルゲイ族が川に落ちて行く。


(あれ……?)


 手応えの違いに困惑する翠。


 二回、三回、羽ばたくがアルゲイ族は、思ったよりも離れて行かない。


(力が弱くなってるのか……?)


「限界ポイですね。後は、ワタシと奥方で処理しますよ。奥方、あの川の水で竜巻を作って奴らにぶつけて下さい」


 <承知ですわ>


 すると、翠の目の前に大きな、大きな水の柱が出来て渦を巻いて、辺りにいたアルゲイ族を飲み込んで消えていった。

 風の奥方の圧倒的な力を目をした。

 翠は、心臓を取られた意味を知った。

 力も奪われるんだ。

 そして盾にされる……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る