第9話  夢の中に神獣登場

 翠は、この世界に来て初めて安らいで眠ったと思う。


 夢まで見ていた。

 死んだ時にいた銀色の世界に来ていた。

 気付くと人間の姿に戻っていた。


(……? 天界……? ボクはまた死んだのか?)


 翠は、トラックに轢かれた時の服装のままだった。

『魂』と大きく裏に書かれた黒いTシャツ。スキニージーンズ

 スニッカーズのスニーカーだ。


 翠は、目覚めて気分良く立ち上がった。

 思い切り伸びをする。

 竜になったなんて嘘のようだ。とても身体が軽い。ジャンプも出来る。


《夢の中で浮かれるのもその辺にするニャ》


 聞いたことのある声だった。

 翠が上を見上げると、宙にペルシャ猫型神獣『ラルカ』が現われた。


「ラルカ!!」


 猫好きの翠は、ペルシャ猫の姿をしたラルカを見て喜んで抱きに行った。


《なにするニャ》


「僕はまた死んだのかい?」


《竜の君がそんなに簡単に死ぬもんニャ!でも、心臓が取られちゃったニャー》


「……そうなんだ……。僕、人間の方が良いよ。女神様に言って、もう一度、人間に戻してもらってよ」


 翠は、涙ながらに訴えたがラルカは、ヒョイと翠の頭の上に逃げた。


《転生するなら、今の生をしっかり生きることニャ。その道半ばで死んじゃったら、女神様も考えてくれるニャ》


「竜の寿命なんて、どれだけ待ってろって言うんだ!! しかも心臓を取られて、ダルくて動けないんだぞ!!」


 ラルカは、クルリと一周まわって、翠の目の高さまで下りてきた。


《うん、だから女神様の説明不足で僕が来たニャ》


 翠は目が点になった。


「女神の説明不足?」


《この世界のことニャ!》


「少しなら、学んだよ。竜族と人間と人間でも、神の血が流れてる人間もいて、精霊ってお化けみたいな存在と契約して、魔法が使える人間もいるんだろ?それから、そいつらと敵対する魔族がいるって……」


《そう、この頃ね。人間のほうで、魔法使いを増やしちゃったんだニャ》


「ん?」


 翠には、ラルカの言いたいことが分からなかった。


《精霊と契約した魔法使いが増えたことで、魔族の数も増えてしまったんだニャ》


「それは? つまり……」


《つまり、精霊と魔族の数は、おおざっぱに数のバランスがとられてるんニャ》


 翠は、それなら魔法使いの数を減らせば良いんだと単純に思ったが、人間も防衛のため、魔法使いを増やし、勇者召喚までやったのだ。


(だから女神は、ボクに頑丈な身体をくれた?)


「つまり、竜の身体で魔族退治をやれか……?」


《それじゃあ、魔族が可哀そうニャ。竜の方が圧倒的に強いニャ……

 っていうか、適度で良いニャ。人間の味方のフリをして欲しい二ャ》


「やっぱり、魔族退治じゃん! 精霊を減らせば、魔族の数も減るんだろ?」


《それは、君の考えることではないから》


 ラルカがそれだけ言うと、翠は急に目の前が暗くなった。

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