第6話  風竜のボク

 一はばたきで、人間と同じくらいの大きさの羽のある魔族を撃退してしまった。

 一番驚いたのは、翠だ。

 エリシスも驚いていたが、彼はさすがに名門の魔法使いの出である。

 魔族に対する知識も、対処も知っていた。

 アルゲイ族は水に弱いのだ。雨雲をんでいた。


 勇者、アシュレイ・ロットに至っては、エリシスの腕の中で、お漏らししながら、目を廻していた。


 すいは竜身になれたことで、物凄い解放感に酔いしれていた。


(これが、ボクの本当の姿、本当の力か……)


 翠は、自由自在に大空を飛んだ。


(これで、千二百年も寿命があるなんて……女神もなかなか粋なことをするもんだよ)


 翠は気分が良くなっていた。


 頭の中に声が聞こえてきた。


 <良い気にならないことですわ>


(!?)


 翠は、辺りをキョロキョロと見渡した。

 すると、目の前にエリシスの頭上にいた、半透明の色っぽい奥方が、翠を睨みつけていた。


「えっと……? エリシスを守護してなくて良いの?」


 竜身の翠は、風の奥方の怒りが分からずにおずおず聞いてみた。


 <あのお方は、本家に近いお血筋です。わたくしがおらずとも、ご自身の力だけでも飛べますわ。それよりもあなた様です。竜身になれたのでしたら、このまま、ティエリ山脈の風竜の巣へ行くことをお勧めしますわ>


 半透明の奥方は、竜身の翠の身体の近くまで来て言った。


「でも、ボクはこの世界のことは何も知らないんだ。ティエリ山脈と言われても、何処にあるか分からないよ」


 そうすると、風の奥方が翠の頭の上まで移動して来て、一瞬だけ奥方が翠の竜の頭を通り抜けると、エリシスのもとに戻って行った。


 その一瞬で、翠はティエリ山脈の風竜たちの巣の情報を受け取ったのだった。

 でもエリシスは、翠に人間の仲間のところに来いと言っている……。

 人間の記憶の方が強い当時の翠には、風竜の仲間よりも人間の方が、仲間意識が強かったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る