第二五翔
『さあ、先頭三番アロンダイト、最終コーナーを曲がって最後の直線に入ってまいります。それに続くのは六番ティルフィング。差は三竜身と言ったところか!』
シダー氏の実況をシャーロットは厳しい表情で訊いていた。
なんでこんなおかしな展開になっている?
重賞だ。
出翔している竜のレベルがこれまでとは一段も二段も違うと言うのはわかっている。
だが、本当に評判の高い一流所は、ライオネルステークスから直接ダービーへと駒を進めるのだ。
本レースには、モルドレッドや、ウインドハーティアや、アヴァロンや、エクスカリバーといった、重賞勝ちの経験がある竜は一頭だって出ていない。
だと言うのに、どうしてこうも追い詰められている!?
前半は盤石のレース展開であった。
過去二戦、大逃げからのレコード勝ちを収めているアロンダイトである。
敵も大いに警戒し、あっさり逃がしては勝てないと必死に食らいついてきたため差こそ大きく開けれなかったが、アロンダイトは問題なく自らのペースで飛んでいたのだ。
明らかにおかしくなったのは、飛行距離にして八ドラン、ちょうど過去二戦において闘志爆翔によるスパートをかけていた地点である。
そこで逆に、アロンダイトがいきなり失速したのだ。
新竜戦の時とは違い、ランスもアロンダイトの適正なペースというものをしっかりと掴んでいる。
事実、昇級戦の時にそれをしっかりと示していた。
五ドランの通過タイム五八秒七は、過去二戦と比較すると最低ではあったが、今日のレースは一二ドランと距離が二ドランも延びている。
それを考えればタイムが落ちているのはしっかりとペース配分されている証拠と言える。
何か故障が起きたのか、とシャーロットは一瞬蒼白になりかけたが、ランスは誰より竜を愛する男だ。
もし本当にそんな事態だったとしたら、すぐにでもアロンダイトを地上に降ろしているだろう。
だとすればいったいどうして?
理由を探しあてようとして、ハッとすぐにシャーロットの脳裏にある推測が思い浮かぶ。
そんなはずはない、と頭を振ってその推測を振り払うが、悪い予感は消えなかった。
『六番ティルフィング、翼色がいい! 今、三番アロンダイトに並びぃ、そして追い抜いたぁ!』
「そんなっ!?」
リュネットが小さく悲鳴を上げる。
これまでランスを乗せて以来、アロンダイトは一度として先頭を譲った事がなかった。
まさかの異常事態に敗北の予感が彼女を襲う。
シャーロットもぎりっと奥歯を噛み締め、スクリーンを凝視する。
その間も、ティルフィングはアロンダイトを突き離しにかかる。
その差が一竜身に及ぶ頃、「2」と刻まれた石柱とアロンダイトが重なった。
高々とランスは掲げた鞭を振り降ろす。
『さあ、残り二ドラン。おおっと、三番アロンダイトが再加速ぅっ! 先頭を翔けるティルフィングに猛然と襲いかかったぁ!』
「「おおっ!」」
シャーロットとリュネットの歓声が重なる。
彼女たちが見守る中、アロンダイトはぐんぐんと先を行くティルフィングとの差を詰めていく。
先の昇級戦で記録したアロンダイトの時計は一ドラン一〇秒六。
競翔竜としてかなり速いと言える数字だが、ずば抜けているとはとても言い難い。
しかし、ティルフィングはアロンダイトの超ハイペースに付き合ってしまっている。
そんな状態では万全の末翼など披露できようはずもない。
それでも抜かせまいとティルフィングは必死の粘りを見せていたが、さすがに長くは続かなかった。
残り一ドラン、ついに力尽き、アロンダイトが頭一つ抜け出す。
そこからはまさにアロンダイトの独壇場であった。
他竜が次々と失速していく中、ただ一頭、別次元の速度で翔けていく。
『アロンダイト一着! アロンダイト三連勝! ブルーリーフ賞を制し、見事ダービーへの切符を手に入れましたぁ!』
結局、終わってみれば二竜身差の完勝であった。
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