prologueⅡ

「お祖父さま。竜騎士様はお亡くなりになったのですか?」


 枕元に座る初老の男に、少女は問いかけた。


 年の頃はまだ十にも満たないぐらいだろう。

 金髪の見目麗しい美少女である。


 窓からは月明かりが差し込み、天蓋つきの豪奢なベッドを照らしている。

 掛け布団もふんわりと柔らかく温かそうだ。


「そうじゃな……」


 祖父は頬をポリポリと掻く。

 どう言えばいいのか困っているようだった。

 麻疹を患ってしまった孫娘が退屈そうにしていたので昔話を話して聞かせていたのだが、どうやらいたく気に入ったらしい。


 特にかの竜騎士の活躍にはそのつぶらな瞳をキラキラと輝かせていたので、すっかりファンになってしまったようだ。

 それゆえに何と言っていいやら途方に暮れてしまう。


 あの日あの時見た光景を、彼は忘れられない。

 ほんの少年だった自分が、こうして今や孫がいるほどに年を経ても、未だ鮮明に思い出せる。


 竜騎士はいったいどこへ消えたのか。

 あの後、国を挙げての大捜索が行われたが、結果はまるで芳しくなかった。

 普通に考えれば、死んでいると見るべきなのだろう。


 だが、それを愛する孫娘に聞かせたくはないし、何より老人自身が竜騎士の死を信じていなかった。

 だからこう言った。


「まあ、あの方のことじゃ。今頃はきっと、違う世界でも大空を翔けておられるんじゃないかのぅ」

「違う世界?」


 少女が不思議そうに問う。


「うむ。かつてこの世界にいた神々が旅立ったという空の先にある天界、地中深くに存在すると言う魔族たちの魔界、そして竜たちの故郷と言われる幻界、我々が住んでいる世界だけがすべてではない。まだ我々が知らぬ世界も数多あるはずじゃ」

「ああ! そこで苦しんでいる人たちを助けているんですね! この世界のように!」

「そう、我々がこうして平和を享受できているのは、彼の方や、いや他にも多くの英雄たちが血を流したおかげであることを忘れちゃあいけないよ。そして、彼の方と共に闘い、魔王を倒したガラハッドの『血』は絶対に絶やしてはならぬ。竜心王リチャード陛下の愛騎エルサレム、我がロックウェル家の祖にして聖騎士ロビン様の愛騎シャーウッド、黒太子エドワード殿下のダークマター、そして我が父、忠義の騎士ガウェインのガラティーン……この血統は常に英雄とともにある。後の世の新たな英雄の為に、絶対に絶やしてはならんのだ……」

「同感です、お祖父さま。竜騎士さまが帰ってこられた時、愛騎がないのではお困りになりますものね」


 少女がうんうんと深く頷く。その様子が可愛らしくて、老人は孫娘の頭を優しく撫で続けた。


「頼んだぞ、シャーロット……」


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