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3/3の日の出前。「東京の地下」へ出発した。
「長くなる。寝てろ」
と言われたが、寝るつもりはなかった。が、残念ながら目的地で肩をゆすられたということは寝ていたのだろう。気が緩みすぎではないのか。
今まで、全くと言っていいほど公認犯罪者同士の接点は無かった。依頼を共にすることも、会話も。ずっと独りでやってきた。
そこに突然「仲間」ができてしまった。依頼人と請負人の関係だが、志を共にしているので「仲間」だろう。
自分にこんなにも人間味があったことに驚いてしまう。嬉しいのかも、しれない。
「ここが、{東京の地下}ですか」
「ああ。よく地下というのは比喩だと言われるが、そうではない。本当に地下に存在する。貯水池か何かをジャックしたのが始まりだったはずだ」
「へえ」
バイクはゆっくりと進む。ETCのようなゲートが現れた。
「あらあらあらあら、有名人のお二方じゃないですか!」
皮肉たっぷりに、ゲートの横に立つ男は言った。
「光栄だな。中に入れろ」
「ええええええ、どうしよっかなあ」
おちゃらける男と目を合わせてやる。そこで舐めた態度をとりすぎたことに気が付いたようだ。
「っち、仕方ねえ。{X}に確認してやる。そこで待て」
そういってスマートフォンを取り出し、電話をかけ始めた。
数分後。
「来いよ」
とゲートが開かれる。
「{X}がお呼びだ。おい、誰か連れて行ってやれ」
男衆の中から一名が出てくる。その後をバイクを押しながら付いていった。
案内されたのは、地下に似合わない、妙に絢爛な部屋。革のソファーに一人男が腰かけていた。
「ようこそ、{東京の地下}へ」
そういって両手を広げた様子が胡散臭く思えた。
「公認犯罪者のお二人とお会いできるとはねえ」
茶々は静かに立っている。昨夜から刀は刀袋ではなく腰へ落ち着いている。俺の服は全くサイズがあっていないし、おまけに足元はビーチサンダル。それでも彼女には雰囲気があった。
作戦では、茶々がここは話を纏める。斜め後ろに控えていることにした。
「はじめまして。何とお呼びすれば?」
「皆、{X}と呼んでいなかったか?察しの悪いお嬢さんのようだ」
煽りにも全く反応せず続ける。
「これは失礼を。では{X}、私たちは貴方からの命令が欲しい。なんでもしましょう」
例えば、と人を斬る仕草をしながら僅かに口角を上げる。
「ご存じの通り、今や私たちはここにしか居場所はありません。そこで、貴方の手となり足となりたい。いかがでしょう」
頬杖をついたまま、「X」は開口する。
「何が目的だ」
「目的だなんて。私たちは依頼や命令がないと何もできない性分なんです」
さらりと、予定どうりの文言を口にしていく。
「…いいだろう。座れ、国家の犬が地下の犬に成り下がるのも悪くはない」
「感謝します」
ひとまず、第一関門はクリアだ。茶々が椅子に腰かけたのに倣った。
「まず、ここの説明をしてやろう。ここではより犯罪を犯した者が強者として崇められる。単純に言えば多くの人を殺した奴が偉い」
「そうですか」
気持ちの良い慣習ではないと思いつつ、ここでやっていくのは簡単そうだなと思う。
「では何故殺しが発生するのか。それは、ここを統一するためだ」
まるで戦国武将の台詞だ。
「知っての通り、ここは裏社会の王国。そこで王になりたがるのは当然の摂理だ」
中二病を引きずっているような物言いだ。恐らく、灰さんも同じことを思っている気がする。
「お前らは俺を王にするのに協力しろ。その為に他の組織を潰し、人を殺せ」
「対価は」
灰さんが聞く。
「この命令をしてやることだけでは不満か?求めたのはお前たちだろう」
「俺たちは仕事をするんだ。対価を求めて当然だ」
男は恐らく、一筋縄ではいかないと思っているな。そう簡単に口車に乗せられて生きていける世界に身を置いていない。
「ここでの生活を保障してやろう」
「十分だ。感謝する」
適当に、灰さんは頭を下げた。
「おい、外れに小屋があっただろう。そこをあてがってやれ。…後は部下に聞け」
立ち上がった「X」に合わせる。
「どうぞ、存分にお使いください」
胸に手をあて、恭しく言い放った。
「そうさせて貰おうか」
握手すら交わさず、交渉は終わった。
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