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「随分と洒落てますね」

 唇の血を舐め、顎へ流れたそれを拭う。運び屋は不敵に笑った。

「じゃあ、殺します」

 ピンヒールを脱ぎ捨てた裸足で、漆黒の天使は一礼した。刀を取り出し、抜刀する。その身から溢れる殺気と恐ろしさに、担当者は気を失った。

「お前は援護と救護に当たれ!俺が相手する!」

 弟に叫んだ兄は、先ほどと同様の剣術で斬りかかってきた。

「その剣術、私と同じなんですよ」

 調子が戻ってきた。

「さっきから思っていましたが変な癖がありすぎです。良くないですよ」

「黙れ」

 桔梗兄は急速に傷を負っていく。一つ、二つ、三つと。しかし、あちらこちらから容赦なく攻撃が飛んでくる。私の傷もまた増えていった。

「運び屋、貴方はどこかへ行ってください。邪魔です。今死なれたら困ります」

 軽く応戦していた背中に声を掛ける。

「そうしたいが、無理だ。腕のいい狙撃手がいる」

 桔梗弟のことか。

「俺は戦闘は不得意だ。よろしく頼む」

 運び屋の武器は銃に刃が付いた、初めて見るものだった。

「本当に言ってます?」

 良さそうな武器を持っている割には動けていない。仕方なく隣に立ち、攻撃からかばう。桔梗兄もいるが、他の特犯や警官の存在も忘れてはいけない。殺すことはできているが、ドレスが鬱陶しくて仕方がない。

 数で押され、状況で押され、数分も経てば劣勢だった。外れた、と思った銃弾が足を掠めている。出血が止まらない。

 運び屋も不得意なのは本当らしく、弟の方に腹を撃たれていた。

 それでも、二人で作り出したいくつかの死体が転がっている。相手側も、まともに動けるのは桔梗兄弟ぐらいだった。

「一回引いてもいいですか」

 依頼主に尋ねた。

「丁度そう言おうと思ったところだ」

 運び屋の呼吸が浅い。

「俺がバイクを出す。その隙を作れ」

「はい」

「何をこそこそしている」

 桔梗兄は左腕を潰したが、まだ動いている。斬り合いが続く。

「すみません、興を削いでしまいましたか?」

「楽しいのはお前だけだ」

「楽しい仕事なんて一度もありませんでしたよ」

 優勢なのはこちらだ。特犯の制服のピンバッジを切っ先に引っかけ飛ばす。そちらへ思わず意識が向いたところで、上から刀を振り下ろした。

 詰んだ、一瞬で切り替わったその表情を見つつ、刃が首筋まであと少しのところで、私の身体は崩れ落ちた。

「足が…」

 殆ど力が入らない。立っていられなくなってしまった。命のやりとりの状況というものは、常に一瞬で変わりゆく。

「終わりだ」

 素早く立て直した桔梗兄の刀をじっと見つめるしか、できなかった。

 しかし、それは私ができたこと。

「行くぞ」

 の声と同時に身体は浮き上がり、バイクの後部へ乗せられた。

「助かりました」

「礼はいらん」

 バイクがホールの扉の前で止まる。桔梗弟が銃を向けていた。

「兄と、政府に伝えろ。来月の定例会でまた逢おうとな」

 なんとなく、運び屋の思考が理解できた。

「運び屋と殺し屋からの、伝言です。行きましょう」

「ああ」

 ホテルの廊下を、血の跡と雫を残しながらバイクは走った。


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