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3/1、定例会。
深夜、ホテルでそれは始まった。ドレスアップした殺し屋と、スーツを着た運び屋。殺し屋の肩には刀が、運び屋のすぐそばにはバイクが控えてある。
殺し屋は一応行儀よく案内された席に着いた。同じテーブルを囲む者はいない。運び屋も同様だ。
「皆皆、ご苦労。定例会を始めよう」
この一言で、他の人らは着席した。
面倒だな。一応殺し屋なんだ、殺気を感じとるのが仕事である。ここに入ってから熱烈な視線を送ってくるのが二人いる。例の「双子のヒーロー」だろう。テレビで毎日見ている。
「殺し屋殿」
不意に話を振られるが、完璧な間で対応する。
「私から特にご報告することはありませんよ。今月もつつがなく。」
殺し屋の本名を、この場の誰も知らない。契約者である総理でさえ把握していない。
「運び屋殿」
俺の名は、これだ。足を組んだまま、ワイングラスを片手に口を開く。
「依頼は通常通りだ。…話があるのはあんたたちのほうからじゃないのか」
ことん。ガラスとテーブルが接地した瞬間、殺し屋と運び屋は殺意に包まれた。
「その通りだよ、運び屋くん」
そういったのは、公認犯罪者関連のトップを務める政府の担当者だ。
「もう君たちは用済みなんだ、なんとなく分かっていただろう?」
ちらりと殺し屋へ視線を向ける。何事も無いようにチョコレートをつまんでいた。
「折角だ、紹介してやろう。皆も注目してくれ。さあさ、こちらへ」
腰を低くして呼びつけたのは二人の男。テレビを見ない運び屋にとって、それが「双子のヒーロー」だと察するには時間がかかった。
「ご紹介に預かりました、特別犯罪対策課の桔梗です」
「同じく、警視庁の桔梗です」
武器を持っていない、政府職員たちから拍手が沸き起こる。
「どうも、こんばんは」
声をかけたのは殺し屋だった。いつ見ても幼く見えるが、物言いは達観しているように思う。
「彼らがいれば、君たちは必要ない。これが私たちと国民の意志だ。大人しく、ここで死んでくれ」
殺し屋に担当者は詰め寄る。横に桔梗らが控えているいることに調子を上げたのだろう。
「はい」
微笑みをたたえて、殺し屋はやっとチョコレートから視線を逸らした。
不気味な気配を察知したのか、兄の方は刀を、弟の方は銃を構えた。
「殺害の許可を、警官にも譲渡して構いませんね?」
兄が担当者へ頼む声。
「勿論です。どうぞどうぞ」
座ったままの殺し屋に桔梗兄は斬りかかり、桔梗弟は発砲した。
次の瞬間、殺し屋は死んでいなかった。
無言で刀を受け止めた、手袋をしている手を見つめている。完璧に管理されていた表情が崩れた。
「なんで…」
その小さなつぶやきは、桔梗兄の叫びに搔き消された。
「何故受け止める!」
刃を押し込もうとする様子を察し、殺し屋は席を立ち後ずさった。すぐさま桔梗兄は追いかけようとするが、殺し屋の纏う雰囲気の異常さに足を止めた。その場にいた半数は腰を抜かして座り込んだ。手を震わせ武器を取り落した者もいる。
何も言わない殺し屋を横目に立ち上がり、バイクのトランクから武器を取り出した。数名の意識が俺へ向いたが構わず、殺し屋の元へ歩いた。
「お前は何がしたい」
俯いたまま、零す。
「分からない」
「ええい、何をためらっている!全員でかかれ!犯罪者共を分断して追い込め!」
担当者の怒号が響く。桔梗兄はまた斬りかかってくるが、刀袋に入れたままの刀で受け止めたようだ。
「私は、嫌いです。この人たちが」
「ああ」
「この人たちに殺されたくない」
確かに、殺し屋はそう言った。
「でも、私は…」
「そうだな」
どこからか飛んできた銃弾を武器で弾く。
「俺があんたに依頼しよう。俺もこいつらが嫌いだ。殺してくれ」
そこでやっと、殺し屋と目が合った。
「…その依頼の対価は」
この問いをするということは、契約を結ぶことを提案するのと同義だ。
「あんたを、好きな死に場所まで運んでやる」
目に光が宿った。
「いいでしょう。契約を…」
自分の唇を噛む。そのまま殺し屋の頭を寄せ、唇を噛み切った。血が混ざりあう。
「これで成立だ」
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