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「育成施設では、基礎的な体力づくりと剣術や銃の扱いを教えられる時間と、実際に人を殺す時間があります」

 あそこも一種の地獄だろう。

「ちなみに、あの双子は私のことをその施設の出身者だと気づいていません」

「確かに、知り合いの様子は無かったな」

「はい。公認犯罪者によく言えば抜擢されたとき、一つ試験を言い渡されました。いつもは施設内でやっていた殺人を、別のところでしたんです」

 少し、当時を思い出す時間を貰う。

「…確か、倉庫か何かだったと思います。そこで、綺麗な女性と整った顔立ちの男性を殺しました」

 そう、丁度灰さんのような。

「灰さんの御両親を殺したのは、恐らく私です」

 そうでないと、辻褄が合わない。そうであるとすると、辻褄が合う。


「そうか」

 茶を一口飲む。

「今ここで灰さんが契約を破棄したいと言っても、私は拒否しませんよ」

「それで何になる」

 今更、普通の人間の感情を求めてどうする。

「あの事は俺の中でとっくに整理されているものだ。それに、散々人を殺しておいて、親が殺されたことを喚きどうこうする資格はない」

「そうだとしても」

「いい。俺と同じで、殺されても仕方のない人たちだ」

「…ごめんなさい。私に申し訳ないと思う資格もないし、謝ることもしません。ちょっと罪悪感を赦してもらおうとしていましたね」

 珍しい。茶々の今までの言動からはおおよそ有り得ない。

「灰さんにはだけは味方でいて欲しいと、思ってしまったのかもしれないです」

 そうやって俯く。不意に、血の味のしないキスがしたくなった。


「父さん。俺、父さんと母さんみたいなお仕事をしたいよ」

「そうか?」

 にっかりと笑う。今思えば、同じ道をゆくしか選択肢は無かったのに。

「だって、母さんが言ってた。このお仕事は、絶対に必要だけど、やりたい人はいないって。だから俺がやるんだ!」

「そうかそうか。灰はいい子だなあ」

 軽々と持ち上げられた。今でも表情や仕草ははっきり覚えている。

「じゃあ、父さんのバイクを灰にあげよう。灰がちゃんと、このお仕事ができるようになったらな」

「うん!」

 その日が唐突に訪れることを知らない。残ったのは仕事用のアドレスと引き受けていた依頼。相棒のバイク。そして、この記憶。


「何故、奴らは殺し屋で、運び屋なのでしょう」

 料理店の個室で桔梗兄と政府の担当者が向き合っていた。

「殺し屋には、躊躇なく人を殺せる精神力と、技術がある。それでいて殺人を嫌っていて、こちらでコントロールできていたからだ」

 今は違うと言う怒りを語尾に込める。

「運び屋には、仕事に対する執着がある。手段も問わない。それに、あれは便利だ。言い方一つで何でも屋になる。人殺しができるのもそれを表しているだろう?殺し屋だってそうやって手駒にしたんだろう」

 酒を呷った。桔梗兄は一滴も口にしていない。

「頼んだぞ。君たちに日本の命運がかかっている」

「はっ。正義に懸けて」


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