13
約4週間。二人は毎日依頼を受けた。
組織を壊滅させる。都合の言い様に戦況をひっくり返す、大量の銃を運ぶ。敵対組織に囚われた人の身代金を運んだついでに組織を潰す。
毎日、ただ、訪れる定例会で思うままのシナリオを描く為に。
気づけば、組織の数は片手で数えられるほどまでに減り、「東京の地下」で生活する人間の数も半数ほどになっていた。
3/31、二人は「X」の元を訪れた。
「そろそろ、お前たちが来て一か月か。俺の組織を引き上げ、俺の目標である{東京の地下}の統一に貢献してくれた。それを認めて幹部として迎えたい」
こちらからの突然の訪問にも関わらず、「X」は気を悪くすることなく応対した。
それには関係なく、ここでの返答は決まっている。
「お断りします」
「断る」
「何故だ。何か不満があるか?すぐに改善しよう」
「不満なんて、一つもありません。{X}は私たちの望んだものを与えて下さった」
「じゃあ何故…」
茶々は髪を耳に掛けた。そのまま、「X」へ手を伸ばす。
「貴方が死んで、私たちはここを出ていくからです」
手には、きらきら光るピアス。それが「X」の首筋に刺さっていた。
直ぐに「X」は茶々の手首を掴む。他の組織員も茶々へ銃を向けた。灰は優雅にソファーに腰かけたまま、出されたコーヒーを飲んでいる。
「いつか貴方が灰さんに運ばせた毒。それをちょっとピアスに塗っておいたんです」
みるみる、顔色が悪くなってゆく。
「お前たち、最初からそのつもりで…!」
「そうだ。今日、ここを出ていくことは決定事項だ。後はあんたを殺さないと、契約が俺たちを縛るから、それだけだ」
「今更、私たちが貴方方に敵わないなんてことは思っていませんよね」
組織員へ視線を投げる。
「お世話になりました」
「くそっ…」
掴まれていた手首をくるくると回す。
「じゃあ灰さん、行きましょうか」
「ああ」
圧倒的な指導者である「X」を失い、「東京の地下」が混乱の渦に包まれようと、そこに二人の関心はない。結局、誰からも攻撃を受けることなく、「東京の地下」を去ることができた。
「日付、変わりました」
「そうか」
4/1になって数分。世の中は年度が変わり、新生活に心躍らせているのだろう。
「時間までどうする」
「そうですねえ。連れて行っていただけるはずだった灰さんの拠点にでも行きましょうか」
「悪くない」
久方ぶりの夜空には、相変わらず星が輝いていた。
「お邪魔します」
俺の拠点は、両親からそのまま受け継いだものだ。小さな倉庫に、家族が暮らせるだけのスペースがある。
飾ってあった写真を見て、茶々は苦笑いした。
「うわあ、ガキ大将って感じですね。鼻に絆創膏貼って。キャラチェンジ激しいんじゃないですか?」
「追い出すぞ」
横に並ぶ両親の顔をじっと見つめる。
「やっぱり、殺してきた人の顔なんて思い出せませんね」
返事はしなかった。
「缶詰の賞味期限がまだいけるな」
「本当ですか。それは嬉しいですね」
茶々に手料理を作ってからは、外食は殆どしなくなった。週に一度、あの居酒屋を訪れていたが。
「こんなもの、とっとと回収しておけばいいものを」
「数日張り込んで諦めたんでしょうねえ。中途半端」
公認犯罪者は今や国際指名手配となっている。しかし、今日、いつもの定例会会場に俺たちが来ると分かっていれば、追いたくなくなるのも当然か。
「米も食える。…電気もガスも通っているな」
半ば呆れ気味で、朝食を作ることにした。茶々は人をダメにするクッションに身体を沈め、外の空気を思い切り吸い込んだ。
おにぎり(梅と鮭)と味噌汁。チキンライス。最後は、灰さんが得意なごちゃまぜの炒め物。
二人で食事を摂り、他愛のない会話をして過ごす。これがきっと、守ってきたはずの幸福なのだろうか。
愛刀の手入れは入念に済ませた。灰さんの銃刀も同様だ。
「行こうか」
「はい」
一か月の今日と同じ時間。ホテルへと向かった。
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