第34話 モブは再び挟まれる

「では、二人三脚に出場するのは立花と藤宮に決定だ」


 壇上で先生がそう告げる。

 今の時間、俺達のクラスでは体育祭で出場する種目を決めていた。


 正式にペアが決まり優斗と藤宮は嬉しそうに視線を交わす。

 優斗と藤宮が付き合っている事は殆どのクラスメートが認知しており、この展開は予想していたらしく驚いている生徒はいない。

 それどころか、熱々だねーと茶化す生徒がいるくらいだ。


「じゃあ次は三人四脚に出場する生徒を決めるぞ」


 三人四脚……ストーリーで優斗が沙紀と玲奈と一緒に出場した種目だが、もうその展開は訪れない。


「誰か出場したい生徒はいないか?」


 先生が教室を見渡しながら尋ねるが、手を上げる生徒は現れない。

 そうなると必然的に、まだどの種目にも出場が決まっていない生徒に白羽の矢が立つ。


「雛森と篠原。どうだ、出場してみないか?」


 おそらく二人は断るはずだ。

 ストーリーで二人がこの種目に出場した理由は、優斗とペアを組みたかったからだ。

 なので今の二人には出場する理由が無い。


 しかし俺の予想とは裏腹に、二人はこう言うのだった。


「わかりました。出場します」

「いいわよ。出場するわ」


 えっ、マジか……

 

 その瞬間、男子達が騒ぎ出す。

 理由は明白。

 体育祭のルールで、三人四脚では男子か女子が最低一人は必ず出場しなければならないと決められているからだ。

 残り一枠を狙い、次々と手を上げて立候補する男子達。


「うーん。ここは公平にジャンケンかくじ引きで———」

「待ってください」

「待ってもらえるかしら」


 沙紀と玲奈が先生の言葉に同時に待ったを掛ける。

 シーンと静まり返る教室。

 その静寂を破ったのは玲奈だった。


「先生。実は残り一人に推薦したい生徒がいるの」

「ふむ。雛森もそうなのか?」

「はい。私も推薦したい方がいます」


 沙紀は力強く頷く。


「それは誰だ?」


 先生が尋ねる。

 二人が誰を指名するのか注目が集まる。

 

 やがて二人の視線が…………俺に向けられた。


「晴哉よ」

「晴哉君です」


 ……なんとなくそんな気がしたよ。


「早河か。なるほどな……」


 俺が二人と友達であると先生の耳にも入っているらしく、二人の人選に先生はどこか納得している様子だ。

 

「先生。僕も晴哉くんを推薦します」


 なぜか優斗が突然そんな事を言い出した。

 運動神経抜群な沙紀と玲奈のペアに相応しいのは、同じく運動神経が良い俺だと考えての行動なのだろう。

 モブとヒロインがペアになるのを主人公が後押しするという、前代未聞の展開。

 

「早河。三人はこう言っているが、どうする?」

「……」


 頷いてくれ、と先生が目で訴えて掛けている。

 おそらく、俺が断ったら沙紀と玲奈が前言を撤回すると察しているのだ。

 二人も俺をじっと見つめて何やら圧を掛けてくる。

 選択肢はあるようで無い。


「……わかりました。出ます」


 こうして、俺は二人のペアに正式に決まったのだった。

 三人四脚なんて俺とは縁もゆかりも無いと思っていたのに、まさか出場することになるとは……

 それもヒロイン二人と一緒に。


 そして、男子生徒からの嫉妬の視線がますます鋭くなったのは言うまでもないだろう。

 ……そのうち何かされないか心配だ。



◇◇◇◇◇



 ———放課後。

 俺はグラウンドに足を運んでいた。

 というのも、本番に向けて練習をしようという話に先程なったのだ。


 俺の他にも、グラウンドで練習している生徒がチラホラ見受けられる。

 その中には優斗と藤宮の姿もあった。


「ん?」


 突然、生徒達(主に男子)がざわめき出す。

 彼らの視線の先には、体操服姿の聖女様と女神様がいた。

 俺の姿を見つけた二人は近づいてくる。


「お待たせ」

「お待たせしました」


 それから玲奈が俺の左側に、沙紀が右側に立つ。

 どうやらこの並び方で走るらしい。

 ……俺が真ん中なのか。


「よろしくお願いします。篠原さん」

「ええ、こちらこそよろしくね。雛森さん」


 カラオケで二人に挟まれた時は重い空気になったので心配したが、今は和やかな雰囲気なのでホッと安堵した。


 しかし、それも束の間だった。


「ところで雛森さん。前にも言ったの思うのだけれど、晴哉との距離が近くないかしら?」

「いえ、前に言った通りこれが私と晴哉君のいつもの距離です。そうですよね、晴哉君?」

「えっ、まぁ……」


 いつも通りと言えばいつも通り……かも?


「それに、そう言う篠原さんの方が近いと思います」

「あら、私だって前に言ったようにこれが普通よ。ね、晴哉?」

「えっ、いや……」


 いつもより玲奈との距離が一歩近い気がするので否定しようとしたら、玲奈はニコッと笑って言った。


「そうよね、晴哉?」

「……はい」


 肯定する以外の選択肢など最初から俺には無かった。


 ……と言うか、ちょっと待って。

 なんで二人バチバチしてるんだ!?

 

 まるでストーリー通りの展開を繰り広げる二人を見て、疑問を感じずにはいられない。

 えっ、もしかして……俺の知らない間に何かあった?


「ふ、二人とも。早く練習を始めないか?」


 一先ずこの場を収める。


「……そうね。下校時間まで時間もあまり多くないし、早速練習しましょうか。それに……勝負をするなら・・・・・・・勝たないと・・・・・いけないものね・・・・・・・

「私もそう思います」

「奇遇ね」

「そうですね」

「「ふふっ……」」


 ……二人の微笑みがちょっと怖い件。

 正直不安しかないけど、何事も無く終わるのを祈るばかりだ。

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