第24話 こうして矛先は向けられる

【美玖視点】


 私、相坂美玖には大大大好きな幼馴染がいる。


 小学生の頃に親の仕事の都合で転校した時に、離れ離れになって初めて優斗の存在の大きさに気づき、私は彼への恋心を自覚した。

 数年後の中学三年生の終わり頃、私は優斗と運命の再会を果たした。

 その際に連絡先を交換し合い、メッセージのやりとりをするようになった。

 

 それからは毎日が楽しかった。

 でも、そんな幸せな日々は突然終わりを告げる。

 それも最悪な形で。


優斗 『美玖。実は僕ね……彼女が出来たんだ』


「は?」

 

 冗談だと最初思ったけど、どうやら冗談なんかではなく本当に彼女が出来たとのこと。

 つまりその彼女……藤宮雫は私から優斗を勝手に奪ったのだ。

 

「許さない、絶対に」


 それから私は優斗に祝福のメッセージを送りつつ、藤宮雫に関する情報収集をおこなった。

 でも、その結果は惚気話を聞かされるだけ。

 冷静に考えればそりゃそうだって話なので私の自業自得だけど、その時の私は冷静さなんて持ち合わせてなくて、ただただ藤宮雫への悪意が増すばかりだった。


 そして、ついに私は……


「優斗、今行くから……」


 学校をサボって、優斗の元へと赴いた。

 行った後の事なんて考えてなくて、ただそうせずにはいられなかったのだ。

 

「いた……」


 感情に任せて行動を起こして気づけば優斗の家の近くまで来ていた私は、そこで手を繋いで仲睦まじく下校している優斗と藤宮雫を視界に捉えた。

  

 でも……


「あれ……なんで……」


 喜色満面にあふれる優斗を見た途端、体が動かなくなる。


 仮にもしも藤宮雫から優斗を奪い返せたとしても、優斗があの顔を私に見せる事はない。

 彼女だから……藤宮雫だから優斗はあの顔を見せているのだと、今の優斗を見て私は強く思い知らされた。


 この際、優斗の側にいれるなら二番目の女でも愛人でもなんでも良いとも思っていたけど、そんな都合の良い関係にすらなれない。

 優斗の心の中にはもう私の入り込む余地は一切無いのだ。


 そして、自覚する。

 私の初恋は終わってもう叶わないのだと……

 私は失恋したのだと……

 

「っ……」


 自覚した直後、熱い涙が頬を伝う。

 それから脇目も振らずその場を急いで離れた。

 これ以上あの二人を……幸せそうな優斗を見るのが辛かったから。


 気がつけば、私はとある公園の休憩所に来ていた。

 周りには誰もいない。


「ぐすっ……」


 私はそこで時間も忘れてひたすらに泣き続けた。

 立ち直れる気なんてしない、多分ずっと引きずる。

 

 それからどれくらい泣き続けたか、全部もうどうでもいいやと自暴自棄にやがて陥りそうになる。


 でも、その直前……


「だ、大丈夫?」


 私は彼と出逢うのだった。

 

 心配して声を掛けてくれた彼を、最初私は拒んで遠ざけた。

 彼からしたらせっかくの心配を無下にされたので、嫌な気持ちだっただろう。


「やめろ。彼女に触るな」


 でも彼は、そんな気持ちにさせた私のことを身を挺して守ってくれた。

 それだけじゃない。

 その後も私が何も言いたくないのを気遣って、何も聞かずにいてくれた。

 

 失恋する前の私なら心はまず動かなかった。

 でも、失恋したばかりで傷心中の今の私には彼の気遣いや優しさ、あの頼もしい背中、その全てが劇的過ぎた。

 極め付けに彼は「君を守る」「責任をとる」と、私を口説く始末だ。

 私にだけしか言ってないと言うのだから、本当に彼は……晴哉くんはタラシが過ぎる。


 その後も、私を心配するのは当然だからと晴哉くんは駅まで送ると提案してくれた。

 すごく嬉しかった。

 けど、ふとこんな疑問が頭をよぎった。

 晴哉くんって……女の子の扱いに慣れてる?

 心の中に不安と黒い感情が渦巻き、我慢できず尋ねてしまう。


「晴哉くんって……彼女いるの?」


 どうやら私の思い過ごしだったようで、晴哉くんは現在フリーとのこと。

 

 それから私達は雑談しながら駅へと向かい、名残惜しいけどお別れの時間が来てしまう。


「晴哉くん……またね」


 次いつ会えるか分からないけど、必ず会いに行くという意思表示を込めて私は言う。

 

「またな、相坂」


 晴哉くんも私との再会を願ってくれていたようで、そう返してくれた。


 それから帰宅後お父さんから引越しと転校の話・・・・・・・・を持ち出された。

 前々からそうなるかもとは言われていたけど、どうやら正式に決まったらしい。


 そして、私の転校先は……晴哉くんが通っている高校。

 運命を感じずにはいられず、この上なく胸がときめいた。

 スマホの充電が切れていたせいで晴哉くんと連絡先を交換できなかったので、この吉報を伝えられないのはとても残念だけど。


「晴哉くん……晴哉くん……晴哉くん……」


 その名前を口に出す度に顔が熱を帯びる。

 彼の事を思い出す度、私の中で彼の存在が更に大きくなっていく。

 晴哉くんの言動全てが失恋の傷を癒してくれて、私の心を動かした。

 私の心は、もうすっかり晴哉くんに奪われてしまっていた。


「……晴哉くん、きみが言ったんだからね。だから責任……ちゃんととってもらうから」


 ただ……一つ気がかりな事がある。


 晴哉くんは結構女タラシな一面があるから、彼に密かに好意を寄せている女がいるかもしれない。

 今はフリーみたいだけど、私が転校した時には……なんて可能性も。

 

「でも大丈夫だよね。私、信じてるから……」


 でももし……もし、責任をとるって言ったのにそうしなかったりしたら……


 その時は…………許さないからね、晴哉くん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る