第22話 起こり得るはずのなかった邂逅 ②

 違和感の正体……

 ストーリーで相坂が初登場した時はまだ俺達の高校に転校してくる前だったので、今着ている制服を身につけていた。

 だから見覚えがあったのだ。

 

 でも、なんで相坂がここにいるのかはいくら考えても答えが出ない。

 この時期に相坂がここに来たなんて話、ストーリーでも無かったし……


「……なに?」


 自分の顔を見て固まっている俺に、相坂は警戒心を露わにする。

 相坂の目は鋭く……そして赤くなっていた。


「な、なんでいるのかなって思って……」

「……それ、どういう意味?」


 しまった……初対面でその質問は不自然だ。


「た、たしかその制服って遠くの高校の制服だよな?」

「……よく知ってるね」

「と、友達に制服マニアがいるからな」


 咄嗟に思いついた嘘でこの場を凌ぐ。

 

「それで、なんでそんな遠くの高校の生徒がここにいるのか気になって……」


 この時、俺は致命的なドジを踏んでしまうのだった。

 普段の俺なら、相坂がなぜここにいて……なぜ泣いていたのか、その答えに辿り着けていたかもしれない。

 しかし、今の俺はあまりにも予想外過ぎる邂逅に気が動転してしまい、まともに頭が回っていなかった。

 その結果……その答えに辿り着かないまま、相坂と接してしまうのである。


「……それ、きみに言う必要あるの?」


 言いたくないと意思表示する相坂。

 

「い、いや、ないけど……」


 正直に言えばとても気になるが、俺はただの部外者にすぎない。

 そんな俺に事情を話す必要も義理も、相坂には当然無い。

 それに相坂の様子からも、これは無責任に踏み込んでいい話でないのは明白だ。


「だったら……お願いだからほっといて。今は、一人にさせてよ……ぐすっ」


 悲痛な面持ちを見せた相坂は膝を抱えて蹲り、啜り泣く。

 

 今、俺が相坂の為にしてやれる事は……


◇◇◇◇◇


【美玖視点】


 ……何してんだろ、私。


 さっきの彼の事を思い出す。

 私の顔を見てすごく驚いていたのは気になったけど、それでも彼が私に声を掛けてくれたのは純粋に心配したからであって下心とかはなかった。

 それだけじゃない、彼は無遠慮に私の事情に首を突っ込まないで気遣ってくれた。

 きっと彼はとても優しい人なのだろう。


 そんな彼を拒んで、遠ざけた。

 彼は何も悪く無いのに……これじゃあただの八つ当たりだ。

 でも……それでも、今はどうしても一人にしてほしかった。


 だって私は……


「ぐすっ……」

 

 それからどれくらい泣いただろうか。

 ふと、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

 顔を上げると、そこには軽薄そうな見た目をした三人の大学生くらいの男性が立っていた。


「おい見ろよこの子、めっちゃ可愛くね?」


 私の顔を見るや否や、彼らの顔がニヤニヤとしたいやらしい笑みに変わる。


「ねぇねぇ君、なんで泣いてたの? 良かったら、お兄さん達に事情を話してみなよ」

「……話す必要ないでしょ?」

「そんなツンケンしないで話してみなって。お兄さん達が慰めてあげるからさぁ」

「っ」


 今の私に……失恋した私・・・・・に、慰めるなんて言葉を無責任に掛けないでほしかった。

 それに、この人達はさっきの彼と違って下心しかない。

 だから私は……


「お願いだからほっといてよ!」

「あ?」


 三人の顔が不快そうに歪む。


「チッ。せっかく人が優しくしてやったってのに無下にしやがって。あーあ、心が傷ついちまった。こりゃあ、俺達の方が慰めてもらう必要がありそうだな」


 そう言って、男性の一人が私の腕を掴もうとする。


 しかし、その寸前———


「やめろ。彼女に触るな」


 さっきの彼が戻って来たのだった。


◇◇◇◇◇


【晴哉視点】


 あの後、相坂の言う通りにした俺だったが、やはり心配だったので少し離れたベンチに座って様子を見ることにした。

 すると少しして、いかにもチャラそうな大学生くらいの男性三人が相坂のいる休憩所へとやって来た。

 嫌な予感がしたのですぐに休憩所へ戻る。


 そして、その予感は正しかった。


 俺は相坂を庇うように三人の前に立つ。


「何、お前? もしかして、この子の彼氏?」

 

 三人が鋭い眼光で俺を睨みつける。


「……そうだ」


 俺は堂々と嘘をついた。

 彼らはどうせナンパ目的で相坂に近づいたのだろうから、彼氏がいると分かればそのまま立ち去ると思ったからだ。

 穏便に解決できるならそれに越した事はない。

 相坂も俺の意図を汲み取って否定はしなかった。

 

 しかし……


「実は俺達さ、この子のせいで心が傷ついたからその責任をとってもらわないと気が済まないんだよね。だからお前、彼氏なら……代わりに責任とれよ」


 どうやら穏便には解決できなかったようだ。

 三人はジリジリと距離を詰めてくる。

 相手は三人……数は向こうが有利な上、俺は只今絶賛筋肉痛。

 まぁでも大丈夫か。


 そして、この時の俺は気づいていないのだった。


「……」


 後ろにいるヒロインが、俺の背中に目を奪われてしまっていたことに。

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