第21話 起こり得るはずのなかった邂逅 ①
「晴哉くん。そろそろ僕達のチームの試合だね。頑張ろうね」
「……そうだな」
体育の授業中。
俺と優斗は日陰で休憩しながら、試合の番が来るのを静かに待っていた。
この時期、体育で男子はドッジボールをする事になっている。
夏が近づいていることもあって気温が高くなりつつあるなか、わざわざグラウンドの真ん中でドッジボールをしたいとは思わないので、ハッキリ言ってやる気が出ない。
しかし、やる気が出ない理由は他にもあった。
「いいかお前ら、絶対に早河に当てるぞ!」
「集中砲火だ!」
皆、俺を狙い撃ちにする気満々だからだ。
その理由には心当たりがある。
「晴哉くんが雛森さんと篠原さんとメッセージのやりとりをしているのが知られてから、皆の嫉妬がついに爆発しちゃったみたいだね」
そう……あの二人と友達という事で俺は元々男子達から嫉妬の対象となっていたが、メッセージのやりとりをしていると知れ渡ってしまった事で、彼らの嫉妬心がついに抑えきれなくなったのだ。
「でも、なんでバレたんだ? 俺達は誰にも教えてないのに」
「そんなの最近の三人を見てれば一目瞭然だよ」
「……そんなに分かりやすかったか?」
うん! と、優斗は力強く頷いた。
でも思い返してみれば、最近の俺達はいつでもどこでも時間さえあればメッセージのやりとりばかりしているので、気づく人が出てくるのも当然か。
もちろん知られたからと言って、やめる気は毛頭ないけど。
そういえば、メッセージと言えば……
「……なぁ、優斗。例の幼馴染とは、今もメッセージのやりとりをしてるのか?」
「うん、してるよ。でもどうして?」
「いや…… 優斗と藤宮が付き合ってからもう二週間近く経つけど、その幼馴染は今でもメッセージで二人の交際を祝福してくれてるのか、ふと気になってさ」
「うん。美玖は今でも祝福のメッセージをくれるよ。あ、でも最近なんでか分からないけど、雫についてよく聞いてくるんだよね」
確実に情報収集じゃん。
「……それで、優斗はなんて答えてるんだ?」
「えっとね、可愛くて優しくて気配り上手な自慢の彼女だよ……って答えてるよ」
完全に惚気話じゃん。
藤宮の情報を入手しようとして惚気話を聞かされた相坂の心境……正直、あまり想像したくないな。
いずれにしろ、やはり相坂と藤宮の修羅場が不可避なのは確かだ。
相坂が転校して来るまでまだ日はあるが……それはいわゆる束の間の平穏ってやつだろう。
「頑張れよ……優斗」
ボソッと呟く。
「ありがとう。晴哉くんも頑張ろうね。そして一緒に勝とうね」
いや、ドッジボールの事じゃないんだが……
その後……
「早河のやつ、なんで当たらないんだ!?」
「このままじゃ一度も当てられないまま終わるぞ!」
「おい嘘だろ、なんであんな至近距離のボールを避けれるんだよ!?」
俺は無双して、一度も当てられる事なく全試合を終えたのだった。
◇◇◇◇◇
「いてて……」
放課後。
俺は筋肉痛に襲われていた。
原因は体育の授業しか考えられない。
最近運動を殆どしていなかったのに急に動き回ったから、そのツケが来たのだろう。
「休憩所にでも行くか……」
休憩所のある公園の前を通りかかったので、ストレッチする為に少し立ち寄ることにした。
気休め程度だが、しないよりはマシなはず。
だが……
「ぐすっ……」
休憩所に着くと、そこには先客がいた。
ベンチに蹲って泣いている制服姿の女子。
とりあえず、そっとしておいた方が良いだろう。
俺が来た事に気づいていないみたいだし、忍び足で退散するとしよう。
しかし、踵を返そうとしたその時……彼女にとある違和感を覚えた。
彼女の制服はこの辺りの高校のものではない。
にも関わらず、この制服になぜか見覚えがあったのだ。
その違和感の正体が気になってしまった俺は……
「だ、大丈夫?」
彼女に声をかけた。
かけてしまった。
「……」
彼女はゆっくりと顔を上げる。
「えっ……」
彼女の顔を見た俺は、驚愕のあまり言葉を失った。
それは本来、起こり得るはずのない邂逅。
否——起こり得るはずのなかった邂逅。
な、なんで……なんでここに彼女が……相坂がいるんだ!!??
先客の正体は、主人公——立花優斗の幼馴染にしてヒロインの一人……相坂美玖なのだった。
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