二章

第19話 連絡先

 とある昼休みのこと。


 俺と優斗は、前に沙紀に教えてもらった穴場スポットで昼食をとっていた。


「藤宮からメッセージが来たのか?」


 弁当を食べる手を止めてスマホを見てニヤニヤしている優斗に尋ねる。


「うん。そうだよ」

「羨ましいねぇ」

 

 恋人なんてできる気配すら無い俺からしたら、本当に羨ましい限りだ。

 

「でも、それを言うなら晴哉くんだって皆から羨ましがられてるよ」

「え、なんで?」


 羨ましがられるような事をした覚えはないんだが。


「だって晴哉くんは雛森さんと篠原さんのお友達だからね。あの二人とお友達になりたい人は沢山いるけど、実際になった人はとても少ないらしいから」


 ……前言撤回、確かにそれは羨ましがられるわな。


「それと、晴哉くんは僕の事を羨ましいと思ってるみたいだけど、晴哉くんだってあの二人とメッセージのやりとりしてるでしょ?」

「……いや、してない。連絡先を交換してないからな」

「えっ。そ、そうなの?」

 

 俺は頷く。

 悲しいが、俺のスマホに同級生の連絡先は一つもない。


 哀愁が漂い、どんよりとした雰囲気が流れる。

 

「じ、じゃあ、僕と連絡先を交換してくれないかな? そしてメッセージのやりとりをしようよ」


 優斗がそんなありがたい提案をしてくれる。

 

「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」

「うん。どういたしまして」


 それから俺達は連絡先を交換し合った。


 後日、俺と楽しそうにメッセージのやりとりをする優斗を見て、藤宮からの疑惑の目が更に鋭くなったのは言うまでもないだろう。


「……ん?」


 昼食を終えて教室に戻る途中、不意にスマホが震える。

 確認すると、先に教室に戻った優斗から早速メッセージが送られていた。

 

優斗『初メッセージです。これからよろしくね』


 こちらこそよろしく、と返信しようとした直前に名前を呼ばれる。


「晴哉君」

「沙紀。どうした?」

「いえその、晴哉君がスマホを見て楽しそうにしていたのが気になったので、思わず声を掛けてしまいました」

「実はさっき優斗と連絡先を交換して、今メッセージのやりとりをしてたんだ」

「……」

「沙紀?」


 沙紀は突然ポケットからスマホを取り出した。

 そして、何かを期待するような表情で自分のスマホと俺を交互に見る。


「は、晴哉君。私とも……その……」


 みなまで言わなくても、沙紀が何を伝えたいかは容易に察せる。

 というかこの聖女様、一つ一つの仕草が可愛すぎるのだが……


「沙紀。良かったら俺と連絡先を交換してくれないか?」

「はい。是非お願いします」


 満面の笑顔で沙紀は嬉しさを露わにする。

 そんな反応を見せられると、こっちも嬉しくなるな。


「晴哉君の連絡先……晴哉君とメッセージ……ふふっ」


 口元を綻ばせた沙紀は、浮かれた足取りで教室へと戻って行った。


 その後、教室に戻った俺はとある人物に声をかける。

 名前呼びの一件での失敗からちゃんと学んだので、すぐに行動を起こすことにしたのだ。


「玲奈。ちょっといいか?」

「なにかしら?」

「突然なんだが、俺と連絡先を交換してくれないか?」

「えっ」


 玲奈の手から読んでいた本が落ちる。

 予想外すぎたようで、玲奈は驚愕していた。


「ほ、本当に突然ね。急にどうしたの?」

「俺達って友達なのにまだ連絡先を交換してないだろ? だからだよ。それに、玲奈とメッセージのやりとりもしたいしさ」

「……」

 

 玲奈から答えは返ってこない。

 玲奈の性格なら、オッケーならすぐにそう答えるはず。

 そうじゃないということは……

 

「だ、ダメ……か?」


 俺はしょんぼりと肩を落とす。


「べ、別にダメとは言ってないわ」

「じゃあ交換してくれるか?」

「……い、いいわよ。どうやら晴哉は、私とどうしてもメッセージのやりとりをしたいみたいだからね」

「ありがとう」

「……ふん」


 頬を赤らめた玲奈はそっぽを向いた。


「それじゃあ、今日の夜にメッセージ送るからよろしくな」

「……分かったわ」

 

 そして、会話が終わったあと。


「……ふふっ」


 嬉しさを抑えきれなかったのか、玲奈は人知れず小さく笑みを溢すのだった。



◇◇◇◇◇



「ふぅ。さっぱりしたぁ」


 夜。

 夕食を終え、風呂から上がったので後は寝るまでゴロゴロするだけ。


「でもその前に、早速メッセージを送るか」


 沙紀と玲奈にメッセージを送ると、すぐに既読がついて返信が来た。

 その後は暫く、二人とメッセージのやりとりを交わす時間が続く。


「……ちょっと眠くなってきたな」


 返信されたメッセージをあくびしながら確認すると……


「えっ」


 そこには、眠気が吹き飛ぶような内容が表示されていた。


沙紀『晴哉君。今から電話しても良いですか?』



◇◇◇◇◇


【玲奈視点】


「で、電話してみようかしら……」


 玲奈は晴哉に電話しようか迷っていた。

 特に用事は無い。

 ただ晴哉の声が聞きたくなった、それが理由だった。


 するとそこに天使がやって来る。


「おねぇちゃん。どうしたの?」

「今ね、晴哉に電話しようかどうか悩んでたの」

「したい! ゆいな、はるやおにぃちゃんとでんわしたい!」


 世界一可愛い妹のその一言で、玲奈の決心がようやくついた。


「そうね。私も……したいわ」


 自覚した心に嘘はつけない。


 早速、玲奈は晴哉にメッセージを送るのだった。

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