月夜の下で

 今日一日は大変濃いものだった。

 現役の魔法士団に所属する二人の戦いが見れ、ビーチで楽しく遊んだあとはカルラによる授業。

 二年生、四年生は特に目新しさはないのだろうが、ミナ達一年生やアイリス達三年生にとっては珍しいものだった。

 特に、四年生は他の学年の生徒と交流する最後の機会。これからは各々社会へ出るために準備が入ってくるため、羽を伸ばす場としてはいい息抜きとなっただろう。


 ミナもまた、一人静けさの残る訓練場で今日の授業のことを思い出しながら夜空を見上げていた。


(今日はとても楽しかったです)


 先輩達との交流。王女として色々関係値を築こうと意識はしていたものの、純粋に意見を出し合ったり、教えてもらったりと新鮮で楽しいものだった。

 カルラの授業も、分かりやすくてよかった。失礼な言い方になるかもしれないが、前の先生よりもカルラやクロの授業は分かりやすく、内容が深くて濃い。

 流石は王国最強集団の席に座っている人間だからだろうか? ただ、終始カルラが悔しそうな顔を浮かべていたのは気になったが。


(カルラお姉様、よっぽど悔しかったんだろうなぁ)


 互いに認め、互いにプライドを晒け出せる関係だからなのだろう。

 実の姉のあんな顔など久しぶりに見たし、職務放棄して観客席で爆睡をかましていたクロもどこかご満悦そうに見えた。


(いつか……)


 あの二人のようになりたい。

 そう思って一人、今日戦った訓練場に足を運んでいる。

 思い返して頭の中で反芻、分析しよう……そう考えて島に用意された寮から抜け出したのだが、余韻が残っているだけで復習云々が中々できずにいた。


「無詠唱、扱えるようになったんですけど……」


 手のひらをかざし、ポッと土塊が生まれる。

 本気を出せば、まだまだ大きいものが生み出せる。

 無詠唱……魔法士にとっての詠唱という手間と隙を省いた技術は、大体の人間は二年生の折り返しに入ってから身につけ始める。

 それを一年生の初期に身につけたミナは、間違いなく才能がある部類だろう。

 しかし、クロやカルラと比較すると……やはりまだ足りない。


「はぁ……もっと上手くなりたいものです」


 自然と零れたため息。

 すると───



「そんなの、観察あるのみじゃないですかね?」



 ふと、背後から声が聞こえる。

 いつの間に? ミナはそう思い、咄嗟に背後を振り向く。

 そこには黒色の髪にピンクのメッシュを入れた少女が同じように席に座っていた。


「あ、あの……」


 見慣れない顔だ。

 もちろん、ミナとて今日集まった全員の顔を憶えているわけではない。

 ただ、。同い歳のように見えるこの少女が集まりにいれば、自然と目が引かれてしまいそうなものだ。

 それに、彼女が今着ているのはアカデミーから支給された制服でも運動着でもなく、大きなシャツ一枚といったもの。

 ―――とても、このアカデミーの生徒のようには思えない。


「ん? ちゃんとハーフパンツ履いてますからね? 流石に歳頃の女の子がパンツ一丁なわけないじゃないですかー! そんな性癖、まだ目覚めてません♪」

「いえ、そうではなくてお名前……」


 ミナの警戒心が少し上がる。

 今のところ、肌で感じるような害意は感じられない。

 ただ、この能天気っぷりは……

 となれば、興味で話しかけたわけではないはず。

 つまり、自分に要件があって───


「あぁ、あんまり警戒しないでくださいよー」


 少女は手を振って笑う。


「私の名前はレティって言います。さっきの質問はこれでいいですよね♪」

「レティ……?」


 その名前に、ミナは思わず眉を顰める。

 何せ、その名前は。


「王国魔法士団……


 ビーチでクロが言った時に気になり、カルラに教えてもらった。

 王国魔法士団、第九席───『執着勢』、レティ・クラソン。

 所属する人間は大抵が頭のネジが飛んでいる天才ばかりだが、レティはその中でも抜きん出ている。

 平民の身でありながら、独学で魔法を学んで僅か二年で王国魔法士団の席に座った最年少魔法士。

 そんな人間がどうしてここに? ミナは立ち上がって、警戒をさらに上げた。


「あちゃー、私の名前って意外と知られてるんですね。まぁ、そこんところはあんまり興味ないです。だって、私がなんですから♪」


 レティもまた、ゆっくりと腰を上げる。


(あ、れ……?)


 そういえば、と。

 ミナは今更ながらに思い出す。


(第九席様は、確かカルラお姉様が───)


 その時だった。


 ズンッッッッッッッッッッ!!! っと。


 頭上から一人の女の子が自分達の間に降ってきたのは。


「あはっ、面白い演出ですねっ☆」

「……一人夜風に当たるのは構いませんが」


 降ってきた少女は、そのままレティに向かって足を振り抜く。

 あまりにも重たい一撃は鈍い音を残す。

 レティの体は客席を薙ぎ倒し、離れた場所まで転がっていった。


「ア、アイリス様……?」

「話し相手は選んだ方がよろしいかと。何せ、ですよ。まったく、勝手に抜け出して……追いかけて来てよかったです」


 月夜に輝く銀の長髪を靡かせ、アイリスはミナを庇うように前へと立つ。

 何故、いきなり攻撃したのか? ミナは起き上がってくるレティを見てようやく理解する。


 死亡したとされている女の子が目の前に現れた。

 そんなの、誰かを欺いてまで成さなければいけないことがあったということ。

 そして、姿を見せてまで自分の前に姿を見せたということは、姿というわけで───


「ひゃ、ひゃひゃっ! あらあら、お義姉様じゃないですか!?」

「……あなたにお義姉様と呼ばれる筋合いはないのですが? 初対面でしょうに」

「ふふっ、執着していればいつかは『英雄』様も想いに気づいてくれるはず。気づいてくれれば、想いが届くはず! そしたら、いずれは家族になるんですよ♪」


 愉快そうに笑うレティ。

 本気で蹴ったつもりなのですが、と。一方のアイリスは薄らと冷や汗を流した。


「そういえば、あいつは余裕持って二人って言ってたような? 本当はちゃっちゃとこっそり一人見つけて攫うつもりだったけど……」


 ───来る。

 自然と、アイリスとミナは警戒心を引き上げた。

 しかし───相手は、戦場をも動かす王国最強の魔法士集団、第九席。


「この際、二人まとめて攫っちゃおっか! それに、お義姉様がいれば『英雄』様なら確実にやって来る。執拗に執着♪ さぁさぁ、ヒロインの引き立て役共を連れて行くとしますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」



 ギィ、ガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!! と。

 その猛威が、静かな夜空の下で二人に容赦なく襲いかかった。




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