ビーチ
まぁ、授業ばかりで退屈なのはクロだけではない。
学生の本分は勉強とはいえ、大人になる前の遊び盛りな時期。
そのため、臨海授業では何時間かの自由時間が与えられる───
「せっかくの自由時間だっていうのに、あなたは何をしてるの?」
赤いビキニの上にパレオを巻いているカルラ。
美しいプロポーションと端麗な容姿がクロの目の前に現れ、ふと視線を向けてしまう。
「あのなぁ……俺が優雅に泳ぐと思ってんの?」
広がる視界は澄み切った海。
砂浜には多くの水着になった生徒が歩いていたり、気持ちのいい海に飛び込んで遊んでいる。
時折、チラチラと美しいカルラに視線を向ける生徒がいるものの、本人は気にしている様子もなかった。注目を浴びるのは慣れているのだろう。
先程までの「あの戦い凄かったです! いや本当にマジで!」的な生徒達からの押し寄せる声とはまた違う人気っぷり。
もちろん、勝ったクロもそれはもう大変だった。
「いえ、あなたって泳ぐとか嫌いそうだもの」
「だろ? だったら、寝転がってやることやってた方があとあと楽」
クロは現在、陽の下で遊ぶ生徒達とは正反対にパラソルの下で寝転がっていた。
日焼け嫌、塩っぱい海に飛び込むのも嫌。一応海パン姿になっているものの、今は泳ぐ素振りすら見せず、寝転がりながら『人攫い』に関する書類を眺めている。
「私が言いたいのはそうじゃなくて───」
チラッと、カルラは視線を上げる。
そこには、当たり前のように兄に膝を貸しているアイリスの姿があった。
「なんで白昼堂々と妹に膝枕されてんのよ」
「あら、嫉妬ですか女狐?」
露出度の高い黒いビキニを着用したアイリスが嘲笑うかのように口元を吊り上げる。
「お可愛いですね、歳下の女の子に妬み嫉みなど……そういう可愛らしいのは、学生までと決まっていますよ。若作りにも限度というのがあるのです」
「……クロ、あなたの妹を一発ぶん殴ってもいいかしら?」
「おや、兄様に負けたばかりだというのに潔いですね
「お前らは少しぐらい静かにできないのか……」
自分の真上で火花を散らす美少女と美人。
ある意味両手に花ではあるのだが……なんというか、まったくをもって嬉しくなかった。
その時───
「あの、先生」
白いキャミソールのような水着をしたミナがクロの前に現れる。
二人とは違って可愛らしいというかなんというか。
手に大きなスイカが抱えられているのが、余計に愛らしく映る。
「せっかく海に来たんですし、少しぐらい遊びませんか?」
「えー……」
明らかな嫌そうな顔。
それを受けて少しだけしょんぼりするミナ。
そして───
「私の妹を悲しませるなんていい度胸してるじゃない」
「私以外の生徒とのラブコメは嫌ですが、これはこれで違うと思います」
「えー……」
妙なところで意見が合致する二人であった。
「どうせここまで来ちゃったら調べるものも限られるでしょ? 少しぐらい任務から離れたらどう? 私も手伝ってあげるし」
「……なんかいつもと発言する人間が逆」
とはいえ、カルラの言う通りでもある。
こんなところで書類と睨めっこしていても、『人攫い』のことが進むとは思えない。
ぺしぺしと自分の頭を叩いているアイリスも少しだけ鬱陶しいし、可愛い生徒をしょんぼりさせるのも気が引ける。
クロは仕方なく体を起こし、ミナの持っているスイカへ視線を落とした。
「んで、やるのはスイカ割り?」
「はいっ! 海と言えばこれですから!」
スイカ割り。
プレイヤーは目隠しをして、どこにあるかも分からないスイカを目指して進み、割ることができたら成功という、誰にでも楽しめる遊びだ。
どこにあるかも分からないため、周囲の声を頼りに進まなければならない。
誰を信用するか、誰の言葉み耳を傾けるか。そういった戦略が楽しめ───
♦♦♦
「なるほど、南東方向35度。距離は大体七歩ぐらいだな」
バンッッッ!!! と。
クロが腕を振り下ろすと、長いダイヤモンドの柱がスイカ目掛けて落ちていく。
クロは目隠しを外し、砕けたスイカを見て拳を握った。
「よしっ」
「……私が知っているスイカ割りじゃないです」
───それから少しして。
開けた場所に移動したクロ達は、早速スイカ割りを楽しんでいた。
ただ、開始されて数秒……外野の誰も声を発することなくスイカは割れてしまったが。
「ん? これはスイカの位置を当てて割ればいいんだろう?」
「それはそうなんですけどっ!」
「そんなの、魔力で一帯の砂の量を測って、偏りが生まれている場所を計算すれば普通に割り出せるんだが」
「………………」
これだから、国内最高峰の魔法士は。
ミナはせっかくの遊びが想像の斜め上を走ったことにより、王女らしくもない舌打ちをしてしまった。
「兄様、流石にそれだと面白くないです。もっと兄様のあたふたした姿を見てみたいです」
「魔法なしで割り出しなさいよ」
「えー」
外野からブーイングが入る。
クロは仕方なくもう一度目隠しをして、使う機会がなかった木の棒を握り締めた。
そして───
「よし、どんとこいっ!」
「……先生、もうスイカがないです」
「……………………」
なんか申し訳なくなってきた。
クロはこの自由時間、めいいっぱいミナとの遊びに付き合おうと内心で決意したのであった。
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