登校&出勤

次回以降は9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 さて、なんだかんだ一週間。

 本当に教師不在が目下の問題なのか、クロは早速アカデミーに足を運ぶこととなった。


「……ネクタイとか久しぶりに着けた」


 広大な敷地に豪華な風景。

 聳え立つ校門を抜けて先に見える校舎までの道を、クロはネクタイを緩めながらガックリと肩を落として歩いていた。


「きゃーっ! 兄様、素敵でございます♡」


 なお、横を歩いているアイリスは瞳をハートにさせていた。


「なぁ、マジで考え直さね? 見ろよ、このだるさに満ち溢れたこの俺の姿を……とても由緒正しきアカデミーで教鞭を取るような男には見えないぜ?」

「何を仰いますか!? 兄様こそ至高! 至高こそ兄様! 王国魔法士団の『英雄』である兄様が教鞭を取らずとして、一体誰が教鞭を取るというのですか!?」

「そこら辺の魔法士にでも教えさせといたら?」

「兄様を差し置いて矢面に立つ人間など、馬の糞でも食べさせておけばいいのです」


 その発言をもしもどこかの魔法士でも聞いていれば涙モノだろう。

 しかし、そんなこと気に留めないアカデミーのトップは、相も変わらずクロの珍しいネクタイ姿に目を輝かせていた。


「ちくしょう……マジでアカデミーだよ。もう二年前ぐらいに引退したはずなんだけどなぁ」

「ふふっ、いかがですか兄様? 青春の一ページを改めて刻むとびっきりの美少女との学園デートは?」

「相手が家族じゃなかったら、涙ぐみながら喜んでたよ」


 っていうか、ただ一緒に登校しただけだろ、と。

 なんでもかんでもピンク色に染め上げる妹を見て、小さくため息をついた。

 すると───


『ねぇ、アイリス様よ。相変わらずお美しい』

『でも、あのアイリス様と一緒に歩いている男性……』

『えぇ、あのクズ貴族と悪名高いお兄様では?』

『一緒にいるということは、まさかアイリス様が仰っていた噂は本当……?』


 アカデミーに通う生徒達のチラホラとした会話が耳に届いた。

 分かってはいたが、あまり歓迎されていないような雰囲気が漂っているように思える。

 ただ、クロは少し飛び出たワードに対してふと疑問に思った。


「噂って?」

「あぁ、私がのですよ」

「何しちゃってんの!?」


 知らぬ間に評価が荒らされていたことに、クロは思わず驚いてしまう。


「兄様がアカデミーで働くのであれば、生徒会長として……いいえ、兄様を愛する者として、兄様が通いやすい環境を作る責務がございますっ!」

「だからといって全校集会で声を大にするか普通!? もうそのレベルで噂されたらどんな内容だったのか怖くて聞けねぇよ!?」

「えーっと……私はただ、兄様の身長体重性癖から始めまして───」

「それ以上はもう言うな! 出だしから紹介するワードとしては不適切すぎるッ!」


 絶対に変な噂が立っていそうだと、クロは始まる前から「面倒くさい」以外のナイーブな原因が生まれてしまった。


「というわけですので、すでにもう一人と兄様が魔法の授業を担当する教師だという話は皆も事前に知っておりますのでご安心を」

「何もご安心じゃねぇよ……」


 ご安心できる要素がないというのに、安心できるはずもなし。

 ガックリと肩を落とす横で、アイリスは嬉しそうに腕に抱き着いてくる。

 本当に嬉しそうだというのは、愛くるしい顔を見れば一目瞭然であった。故に、なんだかんだ妹が大好きな兄としては「仕方ないな」と、何度目かのため息をつくだけで留める。


「……んで、さっきチラッと話に出たけどさ、結局俺は魔法講義の担当をすればいいわけ?」

「はい、その通りです。兄様も通っていたのでおおよそは分かっているかと思いますが、王立アカデミーは全授業選択制……その内の一つを兄様が担当する形になります」


 アカデミーでは、それぞれ各々が好きな授業を選択するような形になっている。

 剣術、馬術、教養、数学、経営、ダンス、マナーなど。必要に応じて選択し、それぞれの試験で一定数の成績を納める。

 もちろん、授業は学年ごとによって内容は違う。故に、あまりクラスという概念が存在せず、最低限の単位と成績さえあれば好きな授業だけで勝手に進級できるという珍しいスタイルを取っている。


「もちろん、魔法や剣術の授業は人気授業です。まぁ、皆さん若者ですから「強くなりたい」という英雄願望があるわけですし」

「そういうアイリスは、魔法の授業を取っているのか?」

「当たり前です! 兄様の授業を受けないなどという選択はありません! 去年は取りませんでしたが今年は生徒会長権限を使用して強引にねじ込みました……ッ!」


 職権乱用甚だしい妹である。


「まぁ、アイリスがいるのはいいとしても……ちゃんと俺にできるもんかね?」


 あとは、単純にどうサボれるか。

 とはいえ、上手くサボるにはある程度最低限仕事はこなさないといけない。

 一方的なお願いきょうはくだったとはいえ、下手な授業でもすれば社交界の人気者であるアイリスの顔に泥を塗ってしまう恐れがある。

 そのためにも初めだけでも授業はちゃんとしなければならないのだが……己の悪名のこともある。これから受け持つ生徒がちゃんと授業を受けてくれるか心配なのだ。


「兄様、お任せ下さい」


 すると、抱き着いていたアイリスが自信満々な顔を浮かべる。

 その表情を見て、長年一緒に過ごしてきたクロは「手助けをしてくれる」のだと解釈した。


(アイリスがサポートしてくれるなら、大丈夫……なのかね?)


 クロが妹の顔に泥を塗らないよう気遣っているのと同じで、アイリスもまた己のことを気遣ってくれるだろう。

 何せ、こうして働くのもアイリスの発言きょうはくがあってこそ。

 加えて、兄様ラブな妹が手伝いをしないとは考え難い。むしろ、積極的に協力してくれるはず。

 今更ながらに思い直し、アイリスの頼もしそうな顔を見て───


「不満がある輩は私が秘密裏に処理しますので」


 ───余計に不安になったクロであった。

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