第71話 練習あるのみ!
恐る恐る彩音は、次の特別クエスト受諾ボタンを押した。
『スキルー明鏡止水ーを10回成功させてください。』
それを見た瞬間、彩音は眼を見開いて固まっていた。アサシンの超難易度と言われるカウンタースキル。その受付有効時間はわずか0,2秒 敵の攻撃がインパクトする瞬間にドンピシャで押さなければ発動しない。彩音自身まだ一回もそのスキルを成功させたことは無いのだった。
それを見た美咲は彩音をフォローするように言った。
「あちゃーこれまた厄介なヤツ来たね。でも敵の指定は無いから時間さえあれば絶対クリアできるじゃん。」
「そっか・・・どこがいいんだろう。」
「んーアサシンやったことないからなぁ。ちょっと知り合いに聞いてみようか?」
「お願いします。」
彩音は美咲に向かってペコリと頭を下げた。すると水臭いの一言と共に美咲からまた肩を小突かれた。
美咲は彩音と違って全然人見知りとかしなくて、初対面の人ともすぐ打ち解けて仲良くなることができる。そんな美咲に憧れると同時に、こんな自分に付き合ってくれる事に本当にありがたく思っていた。
スマホでどこかに連絡とってくれた美咲から、参考になるか分からないけどオークは攻撃速度が遅くモーションも大きいので合わせやすいかもとの情報をもらい、魔界へと向かった。
オークLv85
攻撃力:123000
防御力:98000
HP:5,200,000
今のロックスのステータスからすれば取るに足らないモブだ。
恐る恐る彩音はオークへと近づいていく。オークの索敵範囲に入ったロックスに向かって襲い掛かってくるオーク。
「攻撃はもらうつもりで、タイミングを計りながらポチっとね。」
「わかった!」
何度かされるがままに殴られるロックス。思っていた通り、ダメージは美味たるもの。三回目の攻撃タイミングに合わせて彩音はスキルボタンを押した。
ターン!
スカッ・・・
さらに殴られ続けるロックス。こんなロックスは今まで見た事が無い。
「彩音ー明鏡止水ーってリキャスト何分?」
「たしかロッくんが10分って言ってたけど」
「うわー10分も待たないといけないのか。それまで倒しながら他のスキルとか練習すればいい。あの空中に放り投げてドカバキやって叩きつけるやつやってみて?」
「そんなの無理だよ、やった事ない。」
そんな弱音を吐いてると美咲からもっともな指摘が来た。
ー明鏡止水ーが出てくるくらいだからその空中コンボのやつが出てきたらどうするのよと。どうせ待つなら練習しながら倒しつつ待てばいいと。
ー暗雲転身ーは受付有効時間が比較的長いからそれで攻撃を躱すのはようやく8割がたできて来たばかりの彩音に、そこからの地面を背に敵の下に滑り込み空中にけり上げる始動技のー背馳跳躍ーまでが精一杯だった。そこでさらに敵をクリックすれば自動で空中に転移してコンボを入れてくれる。その終わり際にタイミングよくー飛燕落雷ーを差し込めば完璧なコンボなのだが、彩音には正直難しいかもしれない。
何度もトライする彩音。どうにか3回に一回くらいの確率で空中コンボまでは行けるようになった。だが惜しいかな最後のー飛燕落雷ーのタイミングが合わず決まらない。
「うー難しい・・・頭が追いつかないよ・・・」
「彩音、最初はそうだろうけど、数を
そうなのだ。最初はタイミングと次に押すスキルと考えながらやるから、どちらかが間違ってしまったりで上手く行かない。その内考えるより先に指が動くようになる。が、その境地に至るまでは幾度と失敗を繰り返し体で覚えるしかないのだ。
そんな彩音を励ましながらポテチをバリボリと食べる美咲だったが、この状況でもその自然体で接してくれる存在は当の本人にとって非常に大きかった。
何度かー明鏡止水ーのクルータイムの合間にー飛燕落雷ーの練習を繰り返す事数回。
その時は来た。また10分空けてのメインの挑戦タイム。
彩音は真剣な表情でオークの攻撃タイミングをしっかり見計る。
「1,2,3ここ!」
ー明鏡止水ー
ドーン
そこには、明鏡止水を決めて見せるロックスの姿があった。
「おーやっと一回成功だね!おめでとう。」
「あーなんか今タイミングが分かった気がする。すぐやりたいのにできないもどかしさ・・・」
それを見た美咲は、ようやく立ち直ったのを確信したのか微笑んだ。数時間前までは初めて見る彩音の大泣きに内心では酷く動揺していたのだ。
今、彩音の瞳は悲しみで曇ってはいなかった。必ずロックスを復活させるという強い信念の様な光が宿っていたのである。
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