第70話 踏み出す一歩




彩音はロックスを孤独の塔の入口へと操作しながら移動してきた。

今はロックスはもう、彩音自身の力で進むしかない。


「行くね!」


彩音はこれまでずっと見て来たロックスの動きを思い描きながら孤独の塔を突き進む。

彩音の操作とは言え、ベースはフェアリー界トップのアサシンなので、最初は通常攻撃を当てるだけで軽く撃破していった。


97Lvという事もあり、低層では敵の攻撃を完全回避で一発ももらうことは無かった。


制限時間逃げ回らないといけないとこもじっとしてても攻撃を食らう事は無かった。


20階まではロックスと来たことがあったので難なく行けた。


「美咲は何階まで行ったことある?」


「あんまり覚えてないけど30階くらいまでしか登ってないかもねー」


「そっかー・・・」


美咲は50階でもおそらく50~60Lvくらいの敵だからロックスなら大丈夫だよと言ってくれるが、あの優雅に舞い踊るように攻撃をするロックスはもういないのだ。


とにかく彩音には進むしかなかった。どんくさくてもとにかく前へ!

たしかにその動きは優雅という言葉には程遠かった。


「ほんと見る影もないわね・・・」


彩音は頬をぷくーっと膨らませながら横目で美咲をチラリと見て言った。


「だから言ったでしょ。あれはロッくんがからだって」


「仕方ない、私もアサシンはやったことないけど、ちょっとコツを教えるね。」


そして美咲はオート戦闘と合間にスキルを手動で差し込む方法を教えてくれた。

オートで通常攻撃の連撃を繰り出しつつ要所要所で、タイミングよくスキルを押していくのだ。曲がりなりにもようやくアサシンらしい動きになってきた。



そして30階で血まみれリオンが出て来たが、通常コンボのみで一瞬でキャインと倒した。

40階に来ると敵のレベルも急に上がってきて60後半のレベルになって来ていた。だがロックスのベースから見ればまだ全然焦ることは無いのだが、慣れない彩音にとっては必死だった。


「敵の動きをよく見てここ!」


ターン!とー暗雲転身ーのスキルを差し込む彩音。

それは幾度となく見たロックスの動きだった、敵の攻撃に対して優雅に構え攻撃を捌きつつハイド状態になり敵の背後に回り込む。ハイド状態とは透明になり敵から視認されにくくなるのだ。


「おぉ躱したね。」


初めてアサシンの代表的なスキルを成功させるのを見た美咲はパチパチと手を叩く。一度目はどうにかアサシンの専売特許である、ー暗雲転身ーからの背後に回り、ー心臓一刺しー連打のもっとも効率的にダメージを与えれるパターンに持って行くことができるようになったが、繋ぎが慌ててしまってうまく波に乗れない。


それでも力押しでとうとう50階に到達。


 そこには【彷徨うフランキー】がいた。彩音にとってはこの【ディスティニーフェアリー】で最初に遭遇したボスであった。そしてこの彷徨うフランキーこそ、ロックスが喋りかけて来てくれたきっかけになったボスでもあり、その当時の事が鮮明に蘇る。


彩音は少し懐かしく思うと同時に頬をパンと叩いて気合を入れなおした。

(何が何でも・・・絶対に・・・)


そして一歩踏み出すと【彷徨うフランキー】は唸り声を上げながらそのロックスの肢体程あろうかと言う拳を振り上げて来た。


 彩音は一瞬、その唸り声と【彷徨うフランキー】の大きさと迫力に圧されそうになるがキッとにらみつけその振り上げた拳にー暗雲転身ーを合わせていく。

そして背後に回りここぞとばかりにー心臓一刺しーを連打すると、【彷徨うフランキー】から悲痛な雄たけびが上がりHPを奪っていく。そしてもう少しという所でフランキーも最後のあがきと特大範囲スキルを放つ。これに対して彩音は幾度となくその眼にみたー明鏡止水ーを合わせるように打ち込む。


ターン! 


 だがそこにはタイミングが合わず攻撃を食らうロックスがいた。

思わず彩音は目を瞑ってしまった・・・だが目を開いてみると大したダメージを受けていない様子だった。それもそうだロックスはこの【ディスティニーフェアリー】でもトップの総合戦闘力を誇るのだ。Lvも97になってるのでいまさら60のボスの攻撃を一発食らった程度では沈まないであろうが、ソロダンジョンという事でいつものボスよりはある程度弱体化されているようだった。


それを見た彩音は、ロックスが俺はそんなじゃないから大丈夫だと言ってるように思えた。


 気をとりなおしてその振り上げてくる拳にー暗雲転身ーを合わせてズバババババとHPを削り切り【彷徨うフランキー】を討伐する。


そしてクエストが一つ進んだ。

『おめでとうございます。特別クエスト第一段階クリアです。報酬をお受け取りください。』


ポチっと報酬を受け取ると【不屈の魂(欠片)】というものがイベントリに入ってきた。


「やったね彩音。おめでとう!」


「ありがとう。」


そういうと彩音はふぅ~と大きく息を吐いた。

彩音にとっては初めて一人でボスを倒したのである。終わってみればどうと言う事もない無い事かもしれないが、大きな進歩なのではないだろうか。














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